60.船
わしじゃ、アルブレヒトじゃ。
わしらは、あれから4日ほど宿屋止まりつつ、ジパング行きの船が付くのを待っておる。
せめて東行きの船が来れば助かるんじゃが、なかなか良い船に巡り合わぬ。
今日もわしらは、船が付くとの事で、期待に胸を膨らませ港へやって来た。
西から来た船で、今後の進路は東伝いに港を渡って行くとの事であった。
わしとフィリスは、船に乗り込んでいき船長を探しておった。
わしは船長を見つけ、条件やら金額などを交渉しておったのじゃ。
船の外では、わしがおらぬその間に、
「ローラ様、ローラ様でいらっしゃいますね」
と、クレイ達に浮き桟橋を歩いて、近寄ってくる男がいた。
クレイは、ローラと男の間に割って入り警戒する。
こいつは刺客か連れ戻しに来たかどちらだろう?、どちらにせよ渡す気はないのだが。
「あなたは誰ですか?ローラさんに何か用でも?」
クレイは惚けて聞いてみる。
刺客なら切るつもりで、剣に手を掛けると、奴は右の腰に付けていたポーチを開く。
そこから、何かが飛び出して来た。
反射的に盾で防ぐと、鞣し皮の盾を貫通し鎧でやっと止まっていた。
それは、真円の金属の球だった。
こいつは刺客だ、既にリーシャがローラの手を引いて後ろに下がる、シシリーはミルドを後ろに隠しメイスを構える。
奴のポーチからは、無数の球がザラザラと出て来て、奴を中心に反時計回りに回り出す。
魔法使いのようだが、少し変わった術を使ってくる。
あれが全部一斉に飛んできたら、回避も防御も厳しいな、とクレイは思った。
先手を取るべきと思い、踏み込み奴と間合いを詰める、何発か球が飛んできたが、斜めにした盾で弾道を逸らすように弾く。
避けにくい胴を狙っての一撃を放つ、しかし金属の球が邪魔をするように、剣に激しく当たる。
一旦離れるが籠手に何発か当っていて、剣を持つ手が痛む。
これはマズイかもしれない、クレイはそう思い始めた。
すると、
「おりゃー」
と、脇から叫びながら乱入者が現れる、剣士のマークが長大な両手剣を振りかぶって、暗殺者に飛び込んでいく。
黙っていれば当たったかもしれないが、暗殺者は冷静に後ろにステップして躱した。
マークの剣は当たらなかったが、浮き桟橋を破壊して激しく揺らす。
魔術師のベルも詠唱して居たが、完成する前に暗殺者は感づき、係留してある船伝いに、ジャンプして逃げていった。
わしが、船長と交渉を済ませて戻ってきたら、桟橋が破壊され、この間の剣士マーク君が海で溺れかけており、それをクレイとベルが助けようとボートのオールを差し出している所じゃった。
「なにをやっとるんじゃ?」
その後、クレイから説明を受けて、刺客が来た事を知ったわしじゃった。
先日の仲裁の件は、ちょっと目立ちすぎたかもしれぬ。
幻想郷を抜けて来たので追手の目は撒いたと勝手に思い込んでおった。
あと二日ほど逃げ果せて、船に乗ればしばらくはまた追手を遠ざける事が出来るじゃろう。
その日の夕食は助太刀してくれた、マークとベルを交えての宴会じゃった。
二日後、船が出るので皆で港に行き船に乗り込むと、奴が浮き桟橋に現れる。
クレイは前回のリベンジとばかり、盾を構え剣を持ち低く構える。
またポーチから金属の球を出し、自分の回りに巡らせる暗殺者、打ち込まれる球を今度はクレイの盾が弾く。
実はクレイはあの後、盾を金属製のバックラーに買い換えていた。
そして奴の球が一発づつ、しかも決まった位置からしか発射されないことも、見抜いていた。
一気に距離を詰め、盾で押し込んで海に突き落とした、そして動き出していた船に乗りこみ、振り返る。
奴は、浮き桟橋に両手で掴まりながら
「ローラ様ー、いずれ必ずその無頼漢共からお救い致します。今しばらくの辛抱をー」
わしは、クレイに「奴は本当に刺客じゃったのか?」と聞くと、頭をポリポリと掻きながら目を逸らすのじゃった。




