55.窮鼠
わしじゃ、アルブレヒトじゃ。
急に暗くなったのは、入り口から入る光を遮る者がおったからじゃ。
わしには、入り口からわしらを見据える黄色い瞳は、怒りの炎を秘めておるように見えた。
わしは反射的にフィリスを背に隠し、刀を構えた。
神様、古代龍、エンシェントドラゴン、圧倒的な力の持ち主にして、人より聡明な存在。
それがこちらをじっと見ている、それだけでも押しつぶされそうなプレッシャーを感じておったのじゃ。
「ボレよ、こちらに来て下がりなさい」
と奴は言い。
ボレはこちらをチラチラと見ながらも、ドラゴンの脇を抜けて洞窟を出て行った。
洞窟は、ドラゴンが入れるほどの広さは無い、わしはブレスが来ると予感しておった。
構えを中段から、右肩に担ぐような上段に構え直す、もしブレスを吐こうと口を開けたら、中の舌を斬りつけるつもりじゃった。
じりっじりっとすり足で進み、飛び込める様に距離を詰める。
「フィリス、ブレスが来たら、奴の左右開いている方に飛び込んで、そのまま逃げよ」
と、ドラゴンからは目を離さずフィリスに言う。
わしはドラゴンの目を見据え、ブレスの来るタイミングを図っておったのじゃ。
「フィリスは幻想種である前に、わしの家族じゃ。返して貰う」
気合負けせぬよう、自然と絞りだすように言葉が漏れる。
しばしの沈黙の後、その口は開かず、ドラゴンが語りかけてくる、
「目障りだ、命を捨てに戻ってきたお前も、ペガサスにした恩をアダで返す愚か者も」
それだけ言うと、首を引っ込め羽ばたき、ドラゴンは飛んでいったのじゃった。
わしはその場に固まっておったが、ボレがヒラヒラと飛んで近寄ってきて、
「よかったね、黒焦げにならなくて。
あれって、許すから出て行けって事だよね」
と。
わしらは、緊張で寿命が縮む思いじゃった。
神様の気まぐれが変わらぬうちに山を降り、そそくさと退散することにした。
こんな幸運を逃す手は無いっと、わしとフィリスは妖精の道で幻想郷を一目散に逃げ出したのじゃ。
次の日、妖精の道から出ると、クレイとシシリーが声を合わせて、
「おかえりなさい」
と言ってくれたのじゃった。




