27.越境
わしじゃ、アルブレヒトじゃ。
わしらは、家族で旅行をする事になったのじゃ。
もちろん本当の家族ではないし、フリじゃ。
わしらは工業都市リューナイに向かうわけじゃが、その間にはシューレス国とモーリス国の国境があるのじゃ。
そして、魔法使いのメルド導師は暗殺者を送られるほど疎まれ、おまけに面も割れておる。
その見た目は今セシルがそっくりそのまま受け継いでおるので、入国出来ない可能性があったのじゃ。
そのメルド導師の外観は、今はセシルの物になっておるから、わしらの中で今のメルド導師の外観を知っておるセシルを連れて行かないわけにも行かん。
全くややこしい上に、面倒臭い事になっておるのじゃ。
外観から、わしと老婆になったセシルが老夫婦。
クレイとシシリーが、息子夫婦。
フィリスとリーシャは、わしらの娘姉妹でクレイの妹達。
ミルドはわしの孫で、クレイとシシリーの娘じゃ。
もちろんミルドは、耳と尻尾をシッカリ隠してカツラ着用じゃ。
思えば、セシルが加わっただけであんまし普段と変わってない気もするのぅ。
つまりは成功するかは精神年齢12歳の、老婆セシルに掛かっていると言っても過言ではないのじゃった。
わしらの物騒な装備は馬車に隠して、今はフォーマルでエレガントな格好をしておる。
港町アザレンの領主・賢者マルセルの紹介状もあって、国境を超えるのは容易いと思っておったのじゃが・・・
シシリーがため息をつきつつ
「はぁぁ、私一児の母に見えますかぁ?」
「いや、リーシャにミルドの母は無理があるし、フィリスに母の演技なんて出来るわけがない、ここは消去法でやむなくじゃよ、やむなく」
リーシャはリーシャで
「もう全員兄弟でいいじゃん」
「いや、あくまで若い夫婦に連れられた老人夫婦ってしないと影に隠れないしのぅ」
とニブチンのクレイの代わりに、わしがフォローしておったんじゃ。
すると、馬車の行者が客室への小窓をあけ、「国境を出ます」と告げる。
わしらは家族らしい自然な会話をしようとして・・会話が止まったのじゃ。
上流階級の家族って何話しとるんじゃろうな?
息子が小粋なジョーク言って、オホホホホとか笑うような感じか?
すると、行者からトントントンとノックで合図される。
ここからが本番の、モーリス国に入国じゃ。
馬車の客間の扉を開け、モーリス国の兵士が言う、
「入国の審査が有りますので馬車を降りて下さい」
わしは、
「紹介状のを見たであろう、わしらを馬車から降りろだと?、解って言っておるのか?」
しかし兵士も引き下がらず、
「申し訳有りません、規則ですので」
「ならばクレイよ、審査とやら終わらせてまいれ」
と言って、わしらは降りる素振りを見せない。
困り顔の兵士だが、クレイが降りて馬車から離れるように肩を掴み、そっと金を握らせる。
「父は頑固者ですから、これで何か良い物でも食べて機嫌を直して下さい」
と、他の兵士に気が付かれないよう小声でつぶやく、大体はこれで片が付くのだが、ではお顔だけでも改めさせて・・・とこの真面目な兵士は戻ってきて馬車の扉を開けて入ってこようとするのじゃ。
どうするどうする!これかっ!、っとわしは老婆によりにもよってディープなキスをする。
入ってきた兵士は面食らいながらも、そっと扉を閉じた、馬車の外でウェッて嘔吐いておる。
失礼な、やったわしが一番その気分じゃと言うのに。
そのあとの、馬車の中の空気が気まずかった事この上なかったのぅ。




