2.旅立ち
わしじゃ、アルブレヒトじゃ。
わしは、愛馬シュバルツ三世に乗り、街道を南にに進んでおる。
目的地ジパングは東にあるのじゃが、そのまま行くと、死の砂漠を超えねばならん。
道もなく強力な魔物が住み、水さえ無い砂漠を行くのは自殺行為じゃな。
じゃから遠回りでも、南から迂回して行くことにしたのじゃ。
カッポカッポカッポカッポ・・
夜明け前に出発して、そろそろ朝飯を食っても良い頃合いじゃ。
わしが、40代の頃からの付き合いになるシュバルツ三世も、老馬と言われる歳、少しねぎらってやらんとな。
長い旅になる気張きばらずゆっくり行こう、わしは休憩がてらに街道を少し離れた川辺にやってきたのじゃ。
ここには滝が有って良い景色なのじゃ、馬から鞍を外し水辺へやってくる。
初夏の日差しは暖かく、滝の水しぶきを伴ともなった冷気が清々しい。
わしが滝壺のそばまで来ると、どうも違和感を感じる、視線?気配?
わしはゆっくりと頭を振って、辺りを見渡す。
しかし、特になにも無いようじゃ。
わしは、ふと気がついて、背中からカイトシールドを下ろし左手に構えた。
そして、その盾を滝に差し入れる。
もちろん水の抵抗をまともに受けないように、傾けてじゃ。
滝の裏側には空間があった。
奥行き1.5m、天井は入り口が高さ1m奥に行くに従って低くなる。
そして、その狭い空間にその子はおった。
これ以上、下がれる所など無いのに、背を岩に押し付け、こちらから距離を取ろうと、必死になっておる。
よくよく見ると、人間ではない。
泥にまみれ、汚れているが銀色の髪に、たたんだ犬のような耳が隠れておる。
後ろから見れば、尻尾が生えているのが見て取れるはずじゃ。
種族の名をセシリアンウルフと言う、絶滅寸前の希少種族じゃ。
わしは、なるべくやさしく語かたりかける、
「怯えずとも良い、おまえさんを捕まえに来たのではない。そうじゃ一緒に飯を食わんか?」
わしは<朝食として持ってきた弁当袋を、腰から取って差し出した。
セシリアンウルフは獣人ではあるが、非常に利口で知能は高い、また義理堅く誇高い種族じゃ。
それ故に軍人として重宝された、昔はわしの副官にも居たくらいじゃ。
しかし、この辺りには集落など無く、親の庇護を離れてこんな場所にいるのは、不自然じゃ。
今は、わしの隣で飯を食うのに夢中になっとるので、この子に話を聞くのはもうしばらく掛かりそうじゃのぅ。
そんな事を思っておると、馬のいななきと複数の馬の足音がが聞こえてくる。
セシリアンウルフの子が、ビクッと身を震わせ逃げようとする。
しかし、走って逃げるのは無理なのじゃ、実は足を怪我しとるからの。
だから、あんな狭く寒い所に隠れておったのじゃ。
わしは肩を掴みグイッと引き寄せ、大丈夫だ、と頭をポンポンと叩く。
現れたのは3人の男だった、うち2人は戦士風の出で立ちで、武器は刺股を持っておる。
刺股というのはな、長い棒の先が二股に別れておって、相手を殺さず捕らえるための物じゃ。
やはり、と言うか確定で、こ奴らドレイ商人じゃな。
おそらくは、この近くのドレイ商人のキャラバンから逃げ出したのを、捕まえに来たと言った所か。
男どもの一人が口を開く、
「おい爺さん、その後ろに隠してるガキはウチラのだ、サッサと渡しな」
あー、こんなテンプレみたいなセリフ言う奴居るんだ、ジジイビックリ。
「ドレイか?なんならわしが買ってもよいぞ」
と、わしはうそぶく。
一番後ろに控ひかえていた、商人とおぼしき男が言う、
「爺さん、残念ながらそいつは売約済でね、それでなくともあんたに買える値段とは思えないんだが」
と、ニヤニヤ笑いつつ近寄ってくる。
わしはちょっとムカッと来て、そいつを左手に付けていたシールドでほんのすこ~し小突いてやった。
ガッ!!
奴は大袈裟に後ろに吹き飛び・・・そのまま伸びてしもうた。
手加減はしたんじゃがの、ほほほほ。
「てめっ!」
戦士の2人は刺股を手放すと、腰から剣を抜きそのまま切りかかってきたのじゃ。
と言うか斬りかかろうとした、が正しいかの。
戦士が上段に振りかぶったソードの刃は、振り下ろされる前に、わしに切り落とされた。
わしの間合いに入っておいて、武器を持ち替えるなど愚の骨頂、そのまま刺股で掛かってくれば、まだよかったのじゃ。
返す刀で首の後に一撃入れる。
戦士は昏倒する。
後ろの奴など、まだ剣をモタモタと抜こうとしておったので、そのまま柄頭で殴って気絶させたのじゃ。
戦士よ、よかったな、わしの刀が片刃で峰打が出来て、これが両刃だった日には、お前さん命がなかったぞい。
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わしは馬に鞍を取り付けると、セシリアンウルフの子を前に乗せ、また街道を南に下っていったのじゃ。
途中、商人の馬車を見つけたが、商品はあの子だけだったらしいのじゃ。
相当高額取引されとるみたいじゃな。
街についたら、まずこの子を風呂に居れてやらねばな、正直ちょっと臭いのじゃ。
まずは自己紹介じゃな
「わしはアルブレヒトじゃ、ぼうずは名前は何という?」
その子は、わしを見上げて言う、
「助けていただき感謝しております騎士様、私の名前はミルド、父アルドと母セシルドの子です。」
わしは、驚きを隠せなかった。
なぜなら、わしの元副官の名はアルドであったのじゃ。
「あと・・・私女デスヨ・・」
と、か細い声で主張する。
なん・・じゃと・・
さて、お爺ちゃんの旅イキナリ道連れ作ってしまいましたが、いかがだったでしょうか。
一人だと会話ないよねって事でだったら最初から2人で出発できるようにしとけば良かったんですが。まぁ後の祭りなんでこれで行きます。
あと、誤字脱字、矛盾などありましたら指摘して頂けると幸いです。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。