15.灰色熊
わしじゃ、アルブレヒトじゃ。
森の踏破も順調に進み、森に入って三日目、順調に行けば本日中に到達できるじゃろう。
わしは今日も、背負子で背負われて移動しとる。
しかし、わがままを言って、皆に迷惑をかけるわけにはいかぬ。
これにグッと耐えて・・・・んっ?
皆はもちろん前向いて歩く。
そして当然、 背負子を使って背負われているわしは、後ろを向いておるのじゃが、ふと遠くに何か、動くものが見えて気がしたのじゃった。
なにかと目を凝らしていると、揺れる茂みがワサワサッワサワサと近づいてくる。
まだ距離はあったが、わしは本能的に背筋に寒いものが走り、体が緊張から縮み上がる思いがした。
「クレイおろすのじゃ」
「おトイレですか?」
のんびりと返事を返すクレイには、緊迫感が伝わっておらぬ。
「後ろから何か着とるのじゃ!」
そこからの反応は早かった。
みな武器を手に振り返ると、即戦闘ができるよう荷物を地面に落とし、前衛のクレイは前に出て、その後ろを他が固めた。
襲って来たのは、灰色熊のグリズリーだった。
グリズリーは、ほぼ単体で活動するモンスターじゃが、その分一個体としては非常に強力じゃ。
その大きな体と、硬く密集した毛並みに斬撃は効きにくく、打撃も有効ではない。
弱点は精神力の低さと、魔法抵抗力の低さから魔法全般。
特に精神系の魔法に弱いのじゃ。
しかし、わしらのパーティーには、魔法使いの格好をした者は二人おっても、魔法使いは居ない。
またプリーストの攻撃魔法は、物理的打撃を魔力で起こす奇跡であって、純粋な魔法攻撃ではないのじゃ。
これは、相性的に厄介な敵に出くわしてしもうた。
グリズリーは、手近な位置におったクレイに襲いかかる。
クレイはグリズリーの攻撃を、細心の注意でいなしておった、たとえ盾であっても、まともに受けては持たないからじゃ。
リーシャはショートボウで援護したが、当たってもダメージを与えてるとは言い難い。
シシリーは攻撃を諦め、クレイの防御を高める神聖魔法で援護をしておる。
追いついてきたグリズリーの足の速さから、逃走は難しいであろう。
何とかして、ダメージを与えなくてはなるまい。
そのときクレイが、まともにグリズリーの張り手を盾に受けて吹き飛ぶ。
ゴロゴロと転がって倒れたクレイに、覆いかぶさり噛みつきに行こうとするクリズリー。
じゃが、リーシャの弓が顔に当たり怯んでいる隙に、クレイはなんとか立ち上がった。
しかし、クレイのダメージは大きく、ふらふらしておる。
悠長にしておる猶予はない。
「セグルド斧を持って木に登るのじゃ、リーシャは援護、ミルドはシシリーにくっついておれ、クレイは下がって回復せよ」
と言い放つと、わしは刀を抜きグリズリーの前に出る。
グリズリーの力の前には、わしが盾を持っていても無意味とわかっていた。
じゃからわしは、立木を盾にした。
グリズリーとわしの間には、必ず木が入るように動く。
だが簡単ではない、木から離れすぎると回りこまれてしまうじゃろう。
だから爪の攻撃を避けながらも、木には近づいていなくてはならぬ。
ブンブンと、風切音のしそうなグリズリーの攻撃を躱しつつ、たまに隠れる木を替えながら、わしは待っておった。
そして、隠れる木を更に何本か変えた時に、それは来た。
木の上から音もなく飛び降り、勢いそのままにグリズリーの脳天めがけて、斧を叩き込むセグルドを、わしは待っておったのじゃ。
斧の柄が折れるほどの一撃だったにも関わらず、グリズリーはゆらりとセグルドに振り返る。
更にクレイが飛び降りながら、バスタードソードで突き刺す。
わしも刀で全力の突きを放ち、ようやくグリズリーを仕留めたのじゃ。
魔法があれば、きっと苦労する敵でもないのだろうが、今のわしらには強敵であった。
わしらは息を整え、お互いの健闘を讃え、生き残れた幸運を喜びあった。
それから血抜きするためクリズリーを木に吊るし、内蔵を取り除いて、里の物に取りに来てもらえるように目印をつけておく。
少し時間はかかったが、これは隠れ里に行くにあたって、いい土産が出来たとも言えるの。
戦闘で消耗してはおったが、里につけば体を休められるからと、わしらは今日中の到着を目指し先を急いだ。
皆消耗しておったから、わしも歩いて行っておった。
随分歩いてセグルドが、あの堤のような丘を超えたら、村が見えると言った。
それを聞いて、みんな安堵したのじゃ。
そして、わしが丘を越えて見たのは、焼けた家や死体の転がる死の村じゃった。
皆、一様に立ち尽くしておった。
ミルドが、
「うあぁぁぁああぁーうあぁぁぁー」
と声にならぬ叫び声を上げて、泣き出すのを聞いて我に帰る。
シシリーはミルドに、これ以上見せまいと、抱きしめておった。
そして、シシリー自身も惨状からも目を逸らしておった。
セグルドは、がっくりと膝を落とし、杖にしていた斧の柄を地面に叩きつけた。
クレイは、唖然としておるリーシャを抱きしめて、慰めておった。
そしてわしは、膝を付き両手で地面を掴み、土下座するような格好で、歯を噛み締めていた。
いや、それは土下座だったのかもしれない。
ミルドを親に届けてやれなかった事への。
そして、牢に囚われていたわしを、救ってくれた礼も言えなかった事への。
すいません鬱会です。
どうしても避けられませんでした。
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