2話 黄昏の決意
「生徒会長は居るか?」
廊下から学年主任の教師が声を掛けてきた。
「はい、私です」
私は立ち上がって応える。
「今月の生徒会目録まだ見せに来てないだろ」
「今、書いて――」
私が言い終わる前に言葉を重ねられ、言い分を遮られる。
「それなら早く提出しなさい」
と、注意された私は顔を顰める。
……もっとはやく返しくれれば書き終えてたわよっ!
……せっかくの午後からの良い気分が台無しにされた私がそう思っても無理からぬことだと思う。
なにせ凛くんが私の好きな『苺のホイップクリームチョコ』
菓子をくれたのだから当然でしょ。
ヒソヒソとクラスの女子数名が集まって私を見て話している。
こういった時は大抵――
「ちょうど良かった。天使さん!」
「え…なに?」
明日菜は嫌な予感がしたが相手は待ってはくれない。
「もぉ聞いてよ〜。今日急に塾の時間が変更になったんだけど、あたし等、掃除当番で今から掃除してたら塾間に合わなくてぇ、わるいんだけどさぁ、天使さん代わってくれない?」
「………………」
媚びたように話し掛けて来る彼女等を私は無言で見返す。
「お願いっ! 生徒会長でしょ! クラスメイトの為に力になって、このとぉり!」
手をあわせて頼み込んでくる彼女等に私は内心溜め息をつく。
……はぁ……また、か……。
「いいよ。まかせて、どこの――」
掃除当番と言いかけた時、言葉を遮るように私の肩に手がおかれた。
振り替えって見てみればそこには凜が立っていた。
「え!?」
私もクラスメイトの彼女等も驚く。
「生徒会長は何でも屋じゃないだろ」
「り、凛くん……」
「カラオケ早く行きたいなら掃除くらい自分等で早くやれよ」
凛が冷たく言い放ち、彼女等を突き放す。
「なっ……」
絶句する彼女達はやがて「ヤバいって」「行こ行こ」と、足早に去っていく。
「あいつら『早くカラオケ行きたいから生徒会長に掃除押し付けよう』って、さっきそこで話してたんだよ」
「え……そっかぁ……」
私は諦めた様に笑顔をつくる。
「明日菜……わかってるんならいい。けど、責任感が高じて何て言うのは違うだろ? あいつ等みたいなのを断る事はちゃんとした方がいい。」
それこそ彼女等の責任だろ? と、凛くんが私に問うてくる。
そんなことは私にも解っているから言ってしまった。
「言われなくてもわかってるわよっ!そんなことっ!」
あっ、と私が思ったときには遅かった。凛くんが溜め息をつく。
……呆れられちゃったかな……せっかく庇いに来てくれたのに……。
そう思うと私は泣きたくなってきたが、それでも――
「あ、あのね……」
今更遅いかもしれないけれど。
「何?」
冷たい声で聞いてくる。
「ありがと……助けてくれて」
「ああ」
そう言って凛くんは私の頭を優しく一撫でした。
もう、そんなことされたら心臓がドキドキして壊れそうになるよ……。
そこでふと、思う。
「……って、そう言う君は確か今日昇降口の掃除当番じゃなかったかしら?!
「俺は誰も騙すことなく正々堂々サボりっす」
私はガクっとなる。
「調子いいなぁ……」
いろいろ遣りようがあるんだよっと、私に午後のレモンティーを渡す。
「……なるほどね」
私は男の子ってなんだかすごいと思った。
「あ、明日菜、それもう終わり?」
「え、うん」
こくんと、私は小さく頷く。
「だったら一緒に帰らない?」
なんて、凛が言ってくる。
だから私の返事は決まっている。
「うん」
用事を済ませ、凛くんと一緒の黄昏時の帰り道。
私は思う。
……『一緒にかえらない』こういうのをいつも自然に誘えちゃうところが凜くんらしいって言えばらしいけど、深い意味無いのかな?
「ねぇ、凛くん」
「んー?」
「もうすぐ夏休みでしょ? 勉強意外の計画立ててたりする?」
ふっ、と凛くんが小さく笑う
――っ!今、私わらわれたっ!?
「そうだな、それも含めて今度あいつらと話し合ってみるか。明日菜も一ノ瀬達誘ってさ」
「うん、そうする」
そう返事をしたものの、私はその言葉に嬉しさと同時に落胆もする。
二人きりじゃないのかと、そんな私の内心が解ったかのようなタイミングで
「俺達だけならスマホで連絡取り合えばいいだろ? お互いに連絡先知ってんだからさ」
「っ!!」
私はその言葉に今度は嬉しくて泣きそうになる。
「うん! そうだね。約束だからねっ!!」
「ああ、約束だ」
そう言って優しく笑う。
いつも飄々としててムカつくくらい余裕たっぷりでイジワルだし、それなのに優しくて……何時まで経っても自由な風のようにつかめなくて……、けど、すごく好き……。
休みには入るとこうして一緒に居られなくなるんだよね……。
私の心にズキンと痛みがはしる。
――告白しよう……このまま伝えないで、後悔したくない。
私は、そう決意した。