1話 はじまりは初夏とともに
私、天使 明日菜が朝月 凜と出逢ったのは、中学1年の初夏という中途半端な季節だった。
朝のHR、担任に呼ばれて「はい」と返事を返し教室に入ってきた彼は転校初日だというのに落ち着いていて、ニコリともしない彼は私にはなんだか怖く見えていた。
「朝月 凜です」
その短めに発せれた声はどこか冷たくて、それ以上の自己紹介も無く「担任がそれだけ?」と聞くと「はい」と、興味なさそうに、これまた端的に返事をかえす。
「じゃあ、あなたの席は……あの空いている席ね。学級委員長の隣ですからね」
……目が合っちゃった……。
「よろしくね。天使さん」
担任に示された席―― つまり学級委員長である私の席の隣に朝月 凜がやってきた。
「天使 明日菜です……。一応学級委員やってます。何かわからないことがあったら――」
私が言い終わる前に朝月 凜が「アマツカ?」と、私の名字を問うてくる。
「そうだけど……」
ズキッと、心の傷が痛みを訴えてくる。
……なんなのこのヒト、初対面でそこに反応する?
「どうせ変わった名字よ……」
やだなぁ……。
通り過ぎた過去から声がきこえてくる。
『てんし?』なにそれ、名字?
うっわー堂々と『てんし』って、それ本名?
幼稚園から今まで嘲笑されてきた。
……また、嗤われるのかな……。
そう落ち込みかけてると、席に着いた彼から声が掛けられた。
「じゃあ、明日菜よろしく」
……ん? ちょっとまって。
「今、名前……」
「あっ、ダメだったか?」
私の問い掛けに朝月 凛はしまった、というような顔をした。
「そうじゃなくてっ! な、何で名前」
「どっちもいい名前で似合ってんのに『アマツカ』って呼ばれるの、あんまり呼んでほしくないって顔してたからな。少し勿体無い気もするけどなぁ」
その言葉と初めて見せた、はにかむ笑顔は破壊力バツグンで、それが少し悔しくて冷たくしてみたり、彼がたまに仕掛けてくるイタズラに怒ったり、笑ったりして私と凛くんは親しくなっていった。
そうして気付けば私は二年越しの片想いをしている。
飲み物を買ってきた凛くんは彼の親友二人の話を聞きながら、時折クールに返事を返し「凛が、冷てー」と、嘆く親友を
余所に午後のレモンティーを飲んでいる。
なんかクヤシイ。凛くん……今日もカッコいいじゃない。
少し睨んでみる。完全な八つ当たりだ。
……確かに凛くんが自分から絡んでくるのって私だけ……な気がする。
いつもはクールな凛くんの笑った顔がすごくいいって、最近
クラス、学年問わず人気で……。
あ、また。
「…………」
「あらら、コレは」
「あーあ、このコはまったく」
私は親友の声に意識を戻される。
「あっ、えっと?」
なんでもなーい、と双葉と琴羽に声を揃えて言われてしまう。
そして……私はまた溜息を一つ、思考の海に溺れる。
……凛くんに告白したいけど……大丈夫かな……?