神様のプレゼント
波の音。
夕方の海には、涼しい風が吹いている。
でも、わたしはすごくあったかい。拓途に、後ろから包むように抱きしめられているから。
15才の女子高生になっているわたし。
拓途のあごが、わたしの肩に乗っかっている。
ここは、わたし達が初めて出会った海岸だ。ふたりして、砂浜にぺたんと座り込んで、夕日を見ている。太陽が、もうすぐ水平線に沈む。ずっとこうしていたいけれど、娘のはるを迎えに行く時間だ。
「そろそろ、保育園に行かなくちゃ」
「……んだけど」
拓途が、低い声でボソッと何かを言った。声が小さくて、上手く聞き取れない。
「えっ、何? 聞こえない。もう1回、言って」
「3回も言わせんな」
拓途が怒ったみたいに言う。
「拓途、今は1回しか言ってないでしょ。次は2回目」
わたしは言い返す。
「俺、前も同じこと言ったけど、なつはぜんぜん聞いてなかっただろ。そんで、適当に聞いてるフリして返事したし。あれ、めっちゃ腹立ったんだからな」
「えっ? それって、拓途が怒って、わたしを置いて、自転車で先に公園へ行っちゃったとき?」
「今度は、聞いてるフリしなかったから、許す」
拓途は、わたしの耳元に口を寄せる。息がかかって、くすぐったい。
「あと1回しか言わないよ」
拓途が、深く息を吸う音。そしてゆっくりと、彼はささやく。
「もうちょっと……なつと一緒にいたいんだけど」
恥ずかしそうな、小さい声。でもちゃんと聞こえた。
「うふふ。ありがと」
わたしも照れくさくて、下を向いてしまう。
「わたしも同じだよ。でも、日が沈んだら、35才のおばさんに戻っちゃう」
「こうしてるときは、高校生じゃなくて、大人の方がいい」
拓途は、笑っているみたいだ。
「大人のときの方が、あちこち肉ついてて柔らかいし。ゆるキャラみたいでなんか癒される」
そう言って、拓途はわたしのお尻の肉をつまむ。
「ほれ、早く元おばさんに戻って」
彼は、わたしの肩にあごを乗せる。
クッ、クッと笑いをこらえるような声がした。
「ちょっとひどい! 着ぐるみみたいに太ってるってこと? ぽっちゃりおばさんで悪かったわね。わたし帰る」
わたしは、拓途の腕を解こうとした。
「いいじゃん、触らせろ」
彼は、わたしを強く抱いたまま、離してくれない。
「まあ……照れをわかってない鈍感なところも……好きだけど」
また恥ずかしそうに、小さくなる彼の声。
「それも、今1回しか言わないの?」
「うん」
急に、目の前が暗くなる。夕日が沈んだの――
――じゃなかった。拓途の顔が近づいてきて、わたしは目を閉じたのでした。
☆
このあと元のおばさんに戻ってから、私は、ぱったりと女子高生に変身しなくなった。
もしかしたら神様は、拓途に出会うために、私を女子高生にしてくれたのかな?




