表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/60

祭りの夜に3

「お前、うちの高校の生徒だな。どこかで見たことある顔だ」


 シゲくんが拓途に確かめた。


「しかし、お前がうちの生徒だといっても、なっちゃんは、よく知らない男に家を教えるなんて、不安だと思うぞ」


 シゲくんは、いかにも先生らしく穏やかに諭す。


「俺、この人の家、知ってます」


 拓途は答える。


「この人は、姉ちゃんと職場が同じで、近くに住んでるし」


「お前の姉さんが、なっちゃんと同僚なのか。だったら、任せても……」


 シゲくんはそう言いながらも、心配そうな顔だ。


「拓途、止めなよ」


 みずきさんが、話に入ってくる。


「この空気、わかんない?」


 彼女は、呆れたように笑う。


「先生と女の人が、いい感じになりかけてるでしょ。何で、割り込むかな」


 みずきさんは、シゲくんと私の関係を、勘違いしているようだ。


「ちょっと待って。私達ふたりは、つきあうとか、そういうんじゃない。古い友達なの」


 私はあわてて否定する。


 シゲくんが、生徒さんにあらぬ誤解をされたらまずい。


「まあ……そういうことだ。なっちゃんが言うんだからな」


 シゲくんも、浮かない顔をしていた。


「じゃあ、この人、俺が連れて行っていいっすか?」


 拓途が、シゲくんに向かって、無愛想に訊く。


「なっちゃんは、本当にいいのか」


 シゲくんが心配そうに、私の顔を覗く。


「連絡先、交換しよう。困ったことあったら、いつでも電話くれ」


 シゲくんはジャージのポケットから、携帯電話を出す。


「あっ、先生、やっぱり口説いてる」


 女の子達が、どっと笑った。


「お前ら、違うぞ」


 シゲくんは、彼女達をたしなめる。


「交換はしたいけど、今は無理かな。また次回ね」


 私は、娘のはるを抱っこしていて、スマートフォンが出せない。


「先生、残念でした。フラれちゃった」


 水色の浴衣を着た子が、シゲくんの肩をなぐさめるように叩く。


「ウチらが、相手してあ・げ・る。元気出して」


 彼女は、頭の後ろに手をやって、セクシーポーズをしてみせた。


 女の子達がいっせいに笑う。


 拓途も、呆れたみたいに笑った。


「行くよ」


 彼は、私のわき腹をひじで軽く突っつく。


「拓途、本当に帰っちゃうの?」


 みずきさんが、びっくりした顔で、拓途の腕をつかんだ。


「もういいだろ。命令クリアしたんだし」


 拓途が答えた。


 それにしても、『めいれいくりあ』って、何のことだろう。


「みずきは、かき氷食いたいんなら、あいつらと行けば?」


 拓途は、みずきさんの友人の子達を、ちらりと見る。


「うん……そうしてもいいけど」


 みずきさんは、不服そうに口をとがらせる。


「私なら、送ってもらわなくても大丈夫」


 私は思わず、話に割り込む。


「娘が寝ちゃったし、わたあめは、家まで運んでもらわなくてもよくなったの」


 私の腕の中で、娘のはるが、もう寝息を立てている。


 わたあめは、はるが欲しがったから買ったのだし、この子が食べないなら、持って帰らなくていい。悲しいことに、拓途に家へ送ってもらう理由もなくなってしまった。


 せっかくだし、わたあめは、若いカップルにあげた方がいいだろうか。


「よかったら、若い二人でわたあめ食べて。デートしてたんでしょ」


 私が言うと、みずきさんは頬を染めて、ぷいとそっぽを向く。ちょっと素直じゃないけれど、この子は、拓途のことがすごく好きなのだと思う。


 若い二人が上手くいくことを想像すると、泣きそうになる。でも、ここは、おばさんの出る幕じゃない。


「デート? 違う違う。これ、王様ゲームだから」


 拓途は、びっくりした顔をする。


「王様ゲーム?」


 私もびっくりして訊き返す。


 それって、その昔、合コンで流行ったゲームのことだろうか。やったことはないけれど、ルールは知っている。くじ引きで、『王様』に選ばれた人の命令に、他のメンバーは、絶対に従うルール。イマドキの子が、王様ゲームなんてやるのか。


「うちのクラスで、LINEのグループ作っててさ。王様ゲームやったんだ。それで、出席番号17番と32番が祭りでデート! って命令されて」


 さっき拓途が言った『めいれいくりあ』って、王様ゲームのことだったのだ。


 LINEはメールと違って、大勢でメッセージを交換できるから、若い子はスマートフォンを使ってそういう遊びをしているのだろう。


「王様は、あいつ」


 拓途が指したのは、水色の浴衣を着た女の子だ。さっき、ふざけてセクシーポーズをしていた子。


 私の勝手な想像だけれど、もしかしたら、そのゲームは茶番だったのかもしれない。みずきさんの恋心を知るクラスメート達が、みんなで示し合わせて、拓途とくっつけようとした。真相を知らないのは、拓途ひとりだけだったりして。


「もういいよな? 王様」


 拓途が、水色の浴衣の子に訊いた。


「そうだ。終わりにした方がいいな」


 シゲくんが、場をとりなした。


「お前らは、そんなチャラチャラしたことをして遊んでんのか」


 シゲくんは苦笑いする。


「デートってのは、好きな相手とするもんだろ。好きすぎてガチガチに緊張して、手も握れないで終わるのが、初めてのデートだ。俺らの時代はそうだった。なあ、なっちゃん」


 シゲくんが、私に同意を求めた。


「えっ……そうかな。昔のことだし、忘れちゃった」


 私はそこまで純真じゃなかったから、答えに困ってしまう。


 みずきさんの友達が、『いつの時代?』『昭和より前?』『うわっ、古っ』なんて、こそこそと言い合っている。シゲくんは硬派だから、イマドキの子からすれば、化石みたいに見えるかもしれない。


「手つなぐくらい、普通にするよな」


 拓途が、私の手を握る。その手のひらは、汗でべっとりと濡れていた。


 彼はそのまま、私の手を引っぱって歩き出す。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ