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祭りの夜に2

 3週間ぶりに会った、拓途。以前はぷっくりとしていた頬のラインが、きゅっと引き締まっている。そのせいか、彼は前よりも大人びて見えた。


 拓途は困ったような顔で、目をそらす。


「来てたんだ」


 私も気まずくなって、そっぽを向く。


「うん」


 拓途が答える。周りの喧騒にかき消されそうな、小さい声だ。


「元気だった?」


 私は訊いた。


「まあ、普通」


 低くて無愛想な声。私となんて、気味が悪くて話したくないんだろう。先週、私が15才の少女の姿から、元のおばさんに戻ったとき、彼はまるで、お化けが出たように怯えて逃げたのだから。


「今日は、ひとりで?」


 私は恐る恐る、訊いてみる。シゲくんを取り囲んでいる子達と一緒にお祭りへ来たのだろうか。拓途が他の女性と一緒にいるところなんて見たくない。


「ねえ、拓途」


 ピンクの浴衣を着た子が、振り向いた。その顔は、見たことがある。拓途の幼なじみの子。確か、『みずき』さんっていう苗字だ。私は15才の姿をしているときに一度、彼女と会ったことがある。今日は髪をアップにしていて少し印象が違う。けれど、間違いなくみずきさんだ。


「みんな、かき氷を食べるって。拓途も行く?」


「俺はいい」


 拓途はボソッと答える。 


「彩乃、どうすんの。一緒に行こっ」


「あやのっち、おいでよ」


 女の子達から、急かすような声がかかる。


 みずきさんは、下の名前が『あやの』というのだ。拓途は、苗字で『みずき』って呼び捨てにしていたけれど。


「止めようかな。拓途は、かき氷いらないって言ってるし」


 みずきさんは、拓途の腕に抱きつく。彼女の頬にかかるおくれ毛が、軽やかに弾む。


「あはは、デートの邪魔だった?」


「ごめーん、ウチらは消えるわ」


「ふたりで祭りへ来てんのに、みんなで乱入するなんて、空気読めって感じだよね」


 女の子達が、口々にみずきさんを冷やかす。拓途は、みずきさんとデート中だったのだ。ふたりはつきあっているのかもしれない。


 彼女は、桜の花を散りばめた浴衣姿で、パッと笑顔を咲かせた。


 そばにいる自分が、みすぼらしくて恥ずかしい。白地に藍色の朝顔なんて地味な浴衣で、中途半端に伸びた毛を鳥のしっぽみたいな形に束ねた私。その上、浴衣には似合わないデニムバッグを提げて、中身といったら、子どものパンツと除菌タイプのウエットティッシュ、虫刺されの薬、お茶の入った水筒まで、めいっぱい詰まっている。生活感たっぷりのおばさんだ。


「なっちゃん」


 急に、名前を呼ばれた。


「待たせたな。おわびに、あとで飯おごる」


 シゲくんが、私のそばへ立つ。


 その腕の中で、はるは眠たそうな目をしている。


「せっかくだけど、はるが眠いみたい。もう帰らなきゃ」


 私は答えた。


「そうか。俺が見回りを終わったあとじゃ、遅くなるもんな」


 シゲくんは、名残惜しそうな顔をした。


「ごめん。また誘って」


 私はシゲくんに謝った。彼の腕から、はるを抱き取る。


「わたあめは、どうするんだ。持てるか? あとで、なっちゃん家へ届けてやろうか」


 シゲくんは、見せびらかすように、わたあめの入った袋を揺すってみせた。シゲくんとは古いつきあいだから、うちのアパートの場所は知っている。 


「おいっ、何すんだ」


 急に、シゲくんが驚いたように叫ぶ。拓途がシゲくんの肩を押しのけて、わたあめの袋をひったくったのだ。


「拓途、何やってんの」


 みずきさんも、拓途の腕をつかんだまま、呆気に取られている。


「これ、俺が持ちます」


 拓途は、わたあめの袋をしっかりと抱えた。


「俺がこの人を、家まで送って行くんで」 


 拓途は、みずきさんとデート中なのに、とんでもないことを言う。


「何だと?」「はあ? 何それ」「どうして?」


 シゲくんと、みずきさんと、私。3人が同時に訊き返した。

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