お色気攻撃(R15)
「おっ、浴衣」
拓途は、アルバムをめくる手を止めた。彼はうちのアパートへ遊びに来て、わたしが若かった頃のアルバムを眺めている。
「これ、八幡祭りのとき?」
拓途は、1枚の写真を指す。
「うん」
15才の夏に、地元の八幡宮のお祭りへ行って、浴衣姿で撮ったやつだ。
母のお下がりの浴衣だし、15才のわたしが着ると、すごく地味に見える。白地に、藍色の朝顔を染め抜いた浴衣。わたしが35才に戻れば、しっくり着こなせるかもしれない。
けれど、今、わたしは15才の姿に変わったままで、元の35才には戻れそうもない。
「この浴衣、今すぐ、着れる?」
拓途は目を輝かせて訊く。
「浴衣は、あるけど……」
浴衣は、押入れにしまってあるはずだ。でも、着付けなんてしばらくやっていない。ちゃんと着られるだろうか
「なつが浴衣を着てるの、生で見たい」
拓途がねだる。
わたしは、肩ひものついた白いワンピースを着ていた。ワンピの上へ浴衣を羽織るくらいなら、できるかも。着付けが下手なのは、お色気ポーズでカバーしよう!
「いいわよ。ついでに、お色気もたっぷりサービスしてあ・げ・る・ね」
わたしは、そんな冗談を言いつつ、拓途の鼻先をちょんちょんと突っつく。
彼は、ボーッと上気した顔で、わたしを見た。
浴衣を着るぐらいで喜んでくれるならと、わたしは張り切る。
大急ぎで、押入れの中を探そう。
「うふっ、早くしよう。うずうずしちゃう」
ウキウキしながら押入れのふすまを開けた。わたし達は、和室でくつろいでいたから、押入れはすぐ後ろにある。
押入れに頭を突っ込んで、奥にある箱へ手をかける。普段は使わないものを詰め込んだ段ボール箱。それを引っ張り出して、浴衣を探そうとした。
「あんっ」
思わず、声がもれる。箱は重くて、なかなか動かない。
「う……ふんっ」
わたしは四つん這いのまま、大股を開いてしっかりと踏ん張る。それでも、箱はびくともしない。
「どうしてこっちへ来てくれないの」
思い通りにならない段ボール箱に、つい悪態をつく。
「拓途、お願い。来てくれる?」
わたしは、押入れの外へ声をかけた。男手を借りたい。なのに、彼は返事をしてくれない。
「中へ入って。こっちよ! ココ! ついて来て」
這いつくばった状態で、わたしは押入れの中から片手だけ出した。そのまま、お尻の横で手招きする。
「見てるだけなんて、ダメよ。早くして」
わたしは、拓途を急かす。
彼は、何をしているのだろう。わたしに浴衣を着て欲しいと言い出したのは、拓途なのだ。押入れの中へ入って、少しぐらいは手伝ってくれてもいいのに。
もしかしたら、彼はふざけて、わざと焦らしているのかも。
「いじわる」
わたしはムッとして、振り返った。
拓途はなぜか、畳の上にちょこんと正座している。
「どうして、何もしてくれないの?」
わたしは訊いた。
拓途はひざの上に手を置いて、肩をすぼめて、困ったようにうつむく。
「拓途が来てくれないと、浴衣も着れないし、お色気のサービスできないよ」
わたしが冗談めかして言うと、彼は、『でも……』と言わんばかりに、ちらちらと顔を上げて、視線を送ってくる。
「ケチ。じゃあいい。わたし、ひとりでするから」
わたしはわざと、むくれてみせた。
「ひと……りで?」
拓途は、びっくりした顔で身を乗り出す。
「いやっ、あの、それは」
彼の顔が、みるみる赤くなる。耳まで真っ赤。拓途が何をあわてているのやら、さっぱりわからないけれど、そんなに困るくらいなら、浴衣を出すのを手伝ってくれてもいいのに。
「じゃあ、こっち来てちょうだい」
わたしは、彼の腕を引っ張った。
拓途の目が、なぜか急にうつろになる。
このうつろな目つき、わたしは見たことがある。いつだろう……そうだ。あれは、公園の公衆トイレで、襲われそうになったとき。わたしの言ったことが誤解されてしまって、拓途は、わたしが彼をセックスへ誘ったと勘違いしたのだ。
まさか。今もわたしは、彼を勘違いさせるようなことを言ったのだろうか。そんなつもりはまったくないのに。
「拓途……ぁ……の」
とにかく、わたしは誘ってなんかいない。勘違いだって、早く伝えなければ。『拓途、あのね』と言おうとしたのに、あせって舌がちゃんと回らない。
「ち……んっ」
違うの。そう言おうとした瞬間、拓途がわたしにのしかかる。そしてそのまま、押し入れの中へ倒れ込んだ。
彼の唇にふさがれて、嫌だと言うこともできない。
「んっ、うふっ」
あえいでいるような声しか出ない。拓途の手が、乱暴にワンピースの中へと入ってくる。
わたしの太ももをなで回す、熱い手。
このままじゃ、拓途に犯されてしまう。




