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不器用な優しさ

「バイト9時で終わるから、そこで待ってろ」


 拓途は、わたしの後ろをあごで指す。


 わたしが振り返ると、24時間営業のハンバーガーショップがある。


「困るよ。こんなの」


 わたしは、拓途に渡された財布とスマートフォンを手に、その場に立ち尽くす。


「その金で、何でもいいから食っとけ」


 拓途が不機嫌な声を出す。


「あんたがあんまり飯を食ってないって、咲和が心配してた」


 拓途は言って、足早に去る。彼の姿は、コンビニの自動ドアの中に消えた。


 拓途がわたしを、少しは気にかけてくれた。わたしにはそう思えて、じんわりと嬉しくなる。彼のお姉さんの咲和ちゃんは、わたしの同僚だ。拓途は一度、うちの職場に顔を見せたことがあるし、彼女は何気なく、わたしが食欲をなくしていると、拓途に話したんだろう。


 わたしはハンバーガーショップに入って、バニラシェイクを注文する。注文カウンターの上に、ハンバーガーの写真がずらりと並ぶ。その中に食べたいものがなくて、ドリンクだけを頼んだ。


 シェイクを飲みながら、わたしは、拓途のスマートフォンで母に電話をした。母に預けた、娘のはるの様子を訊く。


「はるがいないのがそんなに寂しいの」


 母は呆れたように笑った。


 シェイクを飲み終わってぼんやりしていると、スーツ姿の若い男が声をかけてくる。わたしは今、15才の少女の姿で、茶髪に短いスカートの派手な格好をしている。だから、簡単に誘いに乗るような子だと、その男に軽く見られたのかもしれない。


「わたし、本当は子持ちのバツイチだし、35才なんだけど、それでもいい?」


 あまりにしつこいから、そう訊いてやった。女子高生に妙なことを言われて、その男は気味が悪かったようだ。男はぎょっとした顔をして逃げていく。


 そうしているうちに、拓途のアルバイトが終わる時間が近づく。彼のスマートフォンには、20時48分と時刻が出ている。もうすぐ拓途がここへ来る。今度はつまらない意地なんて張らず、笑顔でいようと、わたしは心に決めた。


 20分もしないうちに、拓途が店へ入ってくる。


「拓途」


 わたしは、彼に呼びかけた。拓途はすぐにわたしに気づき、足早に歩いてくる。


「電話、貸してもらって、すごく助かった。ありがとう」


 わたしはスマートフォンを借りたお礼を言った。拓途は、面白くなさそうに軽くうなずく。


「あんた、何も食ってないのか」


 彼は顔をしかめる。


「ファストフードなんて久しぶりだから、何を食べていいか、わかんなくなっちゃった」


 わたしは言い訳する。


 拓途は不満げな表情だ。彼はテーブルの上に手を伸ばして、財布をつかむ。スポーツブランドのロゴが入った、マジックテープ式の財布だ。かなり使いこんで、ナイロン生地が破れかけている。


 拓途は、わたしを置いて注文カウンターへ行く。しばらくしてから、彼は、プラスチックのトレーを手に戻ってきた。ハンバーガーとポテトフライに、ドリンクのカップがひとつずつ乗っている。拓途は向かい側に座って、わたしの前にトレーを差し出す。


「えっ? わたしが食べるの」


「嫌ならいい」


 拓途はむくれる。


 彼はバーガーを手に取り、包み紙を開いて、黙々と中身にかぶりつく。拓途は彼なりの不器用なやり方で、わたしに思いやりを示してくれているのかもしれない。


 わたしはポテトフライをつまんだ。揚げたてのポテトはサクッとしている。


「おいしいね」


 わたしが言うと、拓途の顔がほころんだ。

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