私は、私
「あの、私」
「あ、声出さないでくれる? キモいから」
拓途が冷たく言い放つ。
「あんた、気づいてないかもだけど、顔と声が一致してないのって、相当キモいぞ」
拓途は私のあごに手をかけて、指に力を込める。
「この口から、俺の知ってる子の声がするんだ」
拓途の顔が、近づく。
「その子は、『かんざき なつ』っていう。あんたも同じ名前だろ。咲和から聞いた」
拓途が、手にもっと力を込める。私は拓途を見つめた。
「その目つき止めろ」
拓途は、私を突き飛ばす。
「拓途、何するの」
私はよろける。
「あんたが拓途って呼ぶな」
彼が怒鳴る。
「なつと同じ声でしゃべんな、なつと同じ目つきすんな」
「そんなこと言われても無理」
私は言い返す。
「拓途と一緒にいるときは、私は、15才の女の子の姿をしてた」
私は、彼を見上げた。
「でも、拓途とLINEで話したのは、ここにいる35才のおばさんだよ」
彼は嫌な顔をして、私から目をそらす。
「私が15才の女の子になって、拓途の目の前で話したときと、LINEで話したとき、両方の私を、拓途は違う人みたいだって感じたかな? 私はどう違ってた?」
「『どう』って」
拓途が口をつぐんでしまう。
「私の中身はずっと変わってないの。私は私だから、変えようがない」
拓途はうつむく。彼はしばらく考え込んでいる様子だった。
「あんたの言いたいことはわかる。あんたは、俺の知ってるなつだって認めるしかない」
拓途はいら立ったように言う。
「だけどさ」
そのとき、すぐ近くで車のクラクションが鳴った。駐車場に入ろうとしている車から、年配の男性が、こちらを睨んでいる。気がつけば、私達は、駐車場の入り口に立って言い争いをしていた。
「すみません」
私は男性に頭を下げて、駐車場の中へと入る。拓途は男性を睨み返して、私のあとに続く。
「お辞儀の仕方まで、なつと一緒だ」
拓途は、鼻で笑う。
「もしかして、お辞儀の仕方もキモい?」
私は冗談で返す。拓途がまた鼻で笑った。
「ねえ、場所を変えて話そうか」
私は、提案してみる。
「話が長くなりそうだし、はるを保育園へ迎えに行ってから、一緒にご飯でも食べよう」
「飯?」
拓途は迷っている様子だ。
「それとも、ここで早く話を済ませて、帰りたい?」
「まあ、場所を変えたっていいよ。帰っても、ひとりで飯食うだけだし」
拓途は答える。彼のお母さんも、咲和ちゃんも、仕事で帰りが遅いんだろう。
「どこがいいかな。ガストと、餃子の王将と、回るお寿司」
私は、財布の中身を思い浮かべる。給料日前だから、高い店には行けない。
「その三択か」
拓途は苦笑いする。
「それ、あんたのおごり?」
「うん」
「じゃあ、寿司」
拓途は即決した。




