10日ぶりの再会
「お腹が空きすぎて倒れるかと思った。やっとお昼だ」
社員の咲和ちゃんが、嬉しそうに言う。
私は彼女とお弁当を食べている。勤め先のスーパーは日曜で忙しく、私達はなかなか昼休みが取れなかった。今は夕方に近い時間だ。休憩室には、他に誰もいない。
彼女は、お弁当のだし巻きを箸でつまむ。ふっくらとして、おいしそうだ。
「だし巻き、咲和ちゃんが焼いたの? 上手だね」
私が訊くと、咲和ちゃんはニヤリと笑う。
「これ、弟が作ったんです。あいつ、卵焼くのだけは上手いから」
「へえ、そうなの」
私は相槌を打つ。
咲和ちゃんには、年の近い弟がいるらしい。彼女は18才だから、弟さんは、高校生かもしれない。
そのとき、咲和ちゃんのスマートフォンから、着信音がした。短い電子音。メールか、LINEのメッセージが届いたのだろうか。
「着いたんだ」
咲和ちゃんは、スマートフォンの画面を見る。
「神崎さん。うちの弟の顔、見てみたくないですか」
「弟さんの?」
私は訊き返す。
彼女はちょくちょく、『弟ネタ』なんて言って、弟のことを面白おかしく話した。服のセンスがダサすぎて小学生以下だとか、けっこう手厳しいことを言うのだ。
「今、店のそばに来てるんです」
咲和ちゃんが含み笑いをする。
「従業員Pにいるんで、ここから見えますよ」
私達がいる休憩室は、店の2階にあって、窓からは、従業員駐車場が見える。私は、咲和ちゃんと窓際へ行く。
「あれです。グレーのパーカー着てる。あいつ、また小学生みたいな格好して」
咲和ちゃんは、窓から顔を出す。
「た く と」
彼女が叫んだ。
私はびっくりして、窓の外を見る。
拓途が自転車にまたがって、こちらを見上げていた。私は、拓途と咲和ちゃんの顔を見比べる。よく見れば、眉毛や鼻の形が似ている。ふたりが姉弟だなんて、あまりに出来過ぎた偶然だ。
「投げて」
咲和ちゃんが叫ぶ。
「調子乗んな」
拓途の声が聞けた。私はそれだけで嬉しい。先々週に、彼とケンカしてから、連絡が取れなかった。
「早く」
「咲和、うるせえ黙れ」
拓途がむくれた顔で、自転車を降りる。
拓途は、咲和ちゃんを呼び捨てにしていた。それに彼女には、きつい調子で話す。15才の姿をした私には、いつも普通の口調なのに。家族に対しては、照れくさいのかもしれない。反抗期ってやつだろう。
彼は、咲和ちゃんへ向かって何かを投げた。でも届かなくて、アスファルトの上に落ちる。かすかに金属音がした。
「大事な鍵なの。曲げないで」
「投げろつったの、テメエだろうが」
拓途は鍵を拾うと、咲和ちゃんに投げつける。鍵は、彼女の頭より高いところまで上がって、弧を描いて落ち、私のそばへ飛んでくる。私は鍵を受け止めた。
「神崎さん、反射神経いいですね」
咲和ちゃんが、私を褒める。
「やだ、自然に手が出ちゃった」
私は、拓途を盗み見た。彼はなぜか、まっすぐに私を見上げている。私は視線を外せずに、拓途と見つめ合う。
彼は、グレーの長袖パーカーとベージュのハーフパンツ姿だ。パーカーのフードの中身と、パンツのすその折り返しに、赤いチェックの柄が入っている。足元は、紺のクロックス風サンダル。咲和ちゃんが言っていた通り、高校生にしては子どもっぽい服かも。
私はニヤニヤしてしまいそうで、唇を噛んでごまかす。制服じゃない拓途を見るのは、初めてで、嬉しすぎて、笑いが止まらない。




