女は無邪気に、男を傷つける
「あのな、姉ちゃん。大人の女だったら、男心ってもんを理解しろ」
佳祐は呆れ顔だ。
「男はな。やりたい女しか友達にしねえぞ」
佳祐が、偉そうに言い放った。
「何よ、それ」
私は言い返す。
「そんなエッチなこと考えるの、佳祐だけだよ」
私は、拓途の笑顔を思い浮かべる。まるで、犬のゴールデンレトリバーみたい。人懐こくて、あんなに人をほっとさせる笑顔。その裏に、佳祐のような荒っぽい下心が隠れているなんてありえない。
「その男は、姉ちゃんと2人だけで、どこか行こうって誘っただろう」
「うん」
とはいっても、行き先はすぐ近所の肉屋だ。
「そのときに、そいつは、姉ちゃんに飯をおごった」
「まあ、一応」
その肉屋で、コロッケを買ってもらっただけだ。
「つきあってる男がいるか訊かれたか」
「うん。そうかも」
おとといに、私は、拓途とLINEで話している最中に寝てしまった。あのとき、拓途にそんな内容のことを訊かれたかもしれない。
「だったら、俺が予言しといてやる。その男は、もうすぐ姉ちゃんに手を出すぞ。遅くても、まあ半月以内だ」
佳祐は、自信満々に断言する。
「まさか」
私は思わず笑ってしまう。
拓途が、15才の姿をした私を、女として意識しているとは考えられない。拓途は今日、会ったとき、ふざけて私にヘッドロックをかけた。まったく女の子扱いされていない。
「姉ちゃんにその気がないんなら、その男とは、距離を置け」
佳祐は、ふと真面目な顔になる。
「相手の男に押し倒されてから、『そんなつもりじゃなかった』なんて泣いても遅いからな。そのあと、気まずくて顔合わせらんなくなる」
「そうかな」
私は、佳祐の言うことが、まったく呑み込めない。
「男って、けっこう純情だしな。女と目が合ってニコッとされたくらいで、『こいつは絶対、俺に惚れてる』とか期待しちまう」
佳祐が照れたように笑う。
「ええっ、それは飛躍し過ぎだって。目が合ったら笑い返すなんて、普通のことでしょ」
私は、びっくりして言った。
「げっ。姉ちゃんもやっぱりそうか。女ってのは、みんな同じなのか」
佳祐は大げさに、片手で顔を覆ってみせる。
「そうやって無邪気に愛想ばっかり振りまいてると、相手の男を傷つけるかもな」
佳祐の予言は、意外と早いうちに的中した。




