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ママがいなくなると……

 はるは、目を覚まして私の姿が見えなかったから、不安になって起き出したのだろう。べそをかいて、薄暗いキッチンでうろうろと私を探している。


「ママは、ここにいるよ」


 私はベランダからサッシ戸を開けて、はるに呼びかける。私の声に気づいたのか、はるは泣きながらこちらへ走ってきた。


「ママ、ママ」


 すごいボリュームの声を出して、はるは私の足にしがみつく。静かな早朝には、近所中に響き渡りそうな大声だ。私はあわてて、はるを抱き上げる。そのまま家の中へ入って、サッシ戸を閉めた。


「ママがいないから、怖かったんだね」


 私は、はるの背中をなでて、落ち着かせようとする。


「ママは、お外で電話を見てたの。はるを置いていなくなったりしないよ」


 はるは、余計に大きな声で泣いて、私に甘える。ほっぺを涙でべとべとに濡らし、大口を開けて叫び、必死になって寂しさを訴える。


 いつものはるなら、寝起きでぐずっても、これほど大泣きしない。今日はえらい泣きっぷりだ。もしかしたら、熱でもあるのかもしれない。私は、はるの額や首に触れてみる。けれど、変わった様子もない。はるは目覚めたとき、私がそばにいなかったのが、こんなに不安だったんだ。


 ここ数日、私が15才の姿に変身するなんて妙な事件が起こって、私も混乱していたし、はるに構ってやれなかった。今日は思う存分、そばにいてあげよう。楽しい時間をたっぷりと一緒に過ごして、安心させたい。


「今日は、うさぎのいる遊園地へ行こうよ」


 隣の市には、海のそばに遊園地がある。動物とふれあえる広場があって、はるは前回行ったとき、うさぎのエサやりに夢中だった。大きな観覧車や遊具もあって、思い切り走れる芝生広場もある。


「ママ、頑張ってアンパンマンのおにぎり作っちゃおう」


 私は楽しくなってきた。


 醤油をまぶしたご飯を丸く握り、海苔で目と口を作って貼り付ける。ウインナーを輪切りにして、鼻とほっぺをつければ、アンパンマンの顔型おにぎりになる。今日はお弁当を持って出かけよう。


 本当は、午後からのんびりはるを連れて、児童館に行こうと思っていた。でも、予定変更だ。


 はるがしゃくりあげるのを止めて、はにかんだように私の胸元へしがみつく。


「じゃあ着替えよう」


 私は、はるの気を引き立てるように、明るく言った。



 太陽が昇ると、急に気温は上がって、夏のような蒸し暑さになった。はるに水玉のフリルがついたワンピースを着せ、私は薄いグレーのサマーニットを羽織り、麦わら帽子をかぶって家を出る。


 はるは、出かけるまでに散々ぐずった。いざ車に乗せて走り出したらご機嫌になり、チャイルドシートに収まって、でたらめな歌を歌った。私も調子を合わせ、適当な節回しではると合唱する。


 車で15分も走ると、遊園地に着いた。


 はるの手を引いて、遊具のエリアへ向かう。はるは、大きなすべり台におっかなびっくり乗っかって、すぐに私に助けを求めた。馬の形の座席がついたシーソーにはるを乗せて、私が反対側を手で押す。はるはそれが面白かったようで、いつまでも遊びたがった。


 動物ふれあい広場で、はるはうさぎに目を丸くして興奮し、羊を怖がってべそをかく。芝生の広場でお弁当を広げたら、はるがアンパンマンおにぎりの鼻とほっぺだけを取って食べた。お腹がふくれてくると、はるはブロッコリーの小房を口に入れたまま、うとうととし始めた。


「お家に帰ろう」


 私が言ったら、はるが大泣きして嫌がった。一旦、家へ帰って、ちゃんと昼寝をすれば、夕方には保育園の前の公園へ行くからと、私は何度もはるに言って聞かせる。


 泣き疲れて眠ったはるを抱き、私は車へ戻って家路につく。はるが眠っている間に、私はさっと夕飯の支度を済ませた。

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