チーかまをモグモグしているおばさんは、好きですか?
隣の部屋から、短いバイブ音が聞こえる。ちゃぶ台に置いたスマートフォンが鳴ったようだ。
私は、はるを寝かしつけたあとに、ノンアルチューハイで一杯やっていた。寝室のふすまをちょこっと開けて、わずかに差し込む明かりの下、娘のあどけない寝顔を眺めつつ、チーかまをアテに傾ける一杯は最高! そんな癒しのひとときを邪魔する不届き者は誰だ? 私は、チーかまを口にくわえたまま、ノンアルチューハイの缶を片手に、静かにふすまを開けて、寝室を抜け出す。
スマートフォンを見ると、画面に小窓が出ていた。LINEの新着メッセージが届いている。
>今 何してる?
ユーザー名は『拓途』。あの高校生の男の子からだ。
< はるが やっと寝てくれた
私は、送信した。
時刻はすでに、22時30分を過ぎている。
>妹の世話 大変だったな
>おつかれ!
すぐに、彼から返事が来た。
彼は、私の正体がおばさんで、35才だとは知らなくて、私を15才の女子高生だと思っている。娘のはるは、私の妹だと信じているらしい。
< やれやれだわ
私は、チーかまをもぐもぐ齧りながら、返信する。
>やれやれって おばさんかよ
彼からの返信を見て、私はギクッとする。つい、地が出てしまった。おばさんが女子高生になりきって話すなんて、無理がある。おかしいって思われたか。
< 変かな?
私はびくびくしながら、探りを入れる。
>いいんじゃない 自然体で
>俺と話すときは どう思われるとか 気にすんな
彼は、少しも疑っていないようだ。
私が安心して、チーかまを最後まで食べきった、そのとき。
>学校は 楽しい?
彼から、思わぬ質問が届く。
まずい。女子高生になりきって『楽しい』なんて嘘をついたら、さらに突っ込んだことを訊かれるかも。そうなれば、ずるずると嘘でごまかし続けなくちゃならない。
>楽しくないだろ
>学校でも そうやって 相手の反応ばっかり気にしてる?
また彼からメッセージがくる。私が答えに困って返事しないのを、違う意味に誤解したらしい。
>俺もそんな感じ わかる
>まわりとノリが合わないと こんな自分 ダメだって思うよな
彼はすっかり勘違いしているようだ。私が高校で、クラスの友達になじめないと思ったのだろうか。
< そんなことない 違う
私はあわてて訂正する。
>なつはいい子だ
彼の方こそ、とてもいい子だ。私が悩んでいると思って、励ましてくれた。
< いい人じゃないよ 私は
心がちくちくと痛んだ。私が女子高生じゃなくて、チーかまを口にくわえたおばさんだったと知ったら、彼はショックで泣くかな? 泣くよね、たぶん。
さりげなく話題を変えたい。年齢に関係なく話せるネタはないかな。




