「客のことをリサーチするのは、営業の基本だぜ?」
「待たせたな、アミエル」
病院に勤務する親父以外の家族と、つつがなく昼のそうめんを食べた僕は、自室にカギをかけ、悪魔アミエルとの会話を再開した。
「悪魔憑き以外には姿が見えないんだろ? くれば良かったじゃないか。退屈だっただろう」
「いやいや、願いの使い道を考えるのに忙しくてな。気が付きゃ時間が経ってたぜ。――ったくよぉ、人間の欲をどうこう言ってたが、ザマァねえやな」
アミエルはベッドの上で空中に浮遊しつつ、楽しそうに細長い尻尾をくねらせていた。
「さて、大輔。すっかり前置きが長くなっちまったが、まずはお前の願いについてだ。使い道は、神無月菜々子についてのことだろう?」
「知ってたか」
「客のことをリサーチするのは、営業の基本だぜ? それに、『知ってたこと』を知ってただろ、お前」
皮肉っぽく笑う悪魔を横目に、僕は所定のキャスター付き椅子に座ると、眠り続ける病に冒された近所の少女のことを思った。
神無月菜々子……あだ名は「きなこ」。僕とよく登校時に出会うと、そのまま一緒に学校まで行っていた奴だ。昔は男勝りで、一緒に遊んでいた女が意地悪されたりするとイジめた男のとこにケンカしにいって、しかも勝って泣かせたりしていたが、今はすっかり猫を被っている。大きな瞳に品よく通った鼻筋、黙っていればそこそこ小さい唇、そして風になびくと優雅に流れる艶やかな黒髪……。
……。
まあ、それなりに見た目はいいだろう。
「惚れてンだろ?」
出し抜けにアミエルが聞いてきた。