『0個目の願い』
「――ハハハッ! 確かにな!」
悪魔は派手に笑い声を上げた。あまりにツボに入ったのか、目尻を指でなでている。
むせるほどウケていた悪魔は、しばらくしてようやく落ち着いたのか、親指で自分の胸をトントンと叩いた。
「オレの名は『アミエル』ってンだ。いつもは名無しで仕事するんだが、今回は特別だぜ? なんせ、長い付き合いになりそうだからよお」
「そうかい。僕は須賀部大輔だ」
「へっ、よーく知ってるぜ」
「一応、お前には初めて名乗ったんだがな。『相棒』として」
澄ました顔で告げると、アミエルと名乗った悪魔は一瞬目を丸くしたのち、「けっ」と口角を上げつつ首を振った。
「大輔よ、じゃあ相棒として、願いの数について契約変更を提案するぜ。いわば、『0個目の願い』ってやつだな」
指で丸を作ってみせたアミエルは、その穴から紫色の目でのぞいてみせた。
「こいつばかりは、途中で願うことは出来ねぇからよ」
「そうだな。――じゃあアミエル、契約内容の変更だ」
眼鏡をゆっくりと押し上げた僕は、その手をついと前に差し出した。
「ひとまず、願いを9つにしてくれ」
「オッケー!」
欲望という名の土壌が、奇妙な信頼の種を芽吹かせる。
8月15日。僕はその日、悪魔と固い握手を交わした。