裏ルール・その1
「まずは、裏ルールその1だ」
悪魔は青く細長い指をピンと立てた。
「願いの数は増やすことができる。ただし、100個は無理だな。オレという存在が消しとんじまうからよお」
「何個ならいける?」
「オレの力だと、願いの枠を3倍に広げるのが限度だな。それも、遅くとも1つめを叶える前に行うのが条件で、誰かに1回こっきりだけだ。ここでお前に使うってのは、実は相当凄いことなんだぜ?」
「9個か」
僕はさしたる感動もなく、口元を指でおおった。
「おいおい、世にも光栄なコトなのに、不満か? ――ったく、人間の欲はやっぱ際限がねえやなあ」
それを、悪魔は不服に思っているとでも勘違いしたらしい。「これでも多い方だと自負してんのによ。傷つくぜぇ」と、小声でしきりにぶつぶつ言っている。
「そもそもなぁ、『願い』ってのはかなりの事が出来るんだ。その数が、たとえ1個でも増えりゃあ、ご自慢の頭脳でスゴい使い方が思いつくはずだろ? ましてやお前の場合、4つめ、6つめ、8つめをオレの願いに使うとしても、当初の3つだけだった願いが6つへと倍増したんだぜ? ウソでも少しは喜べよ」
「――なあ、悪魔」
僕は構わず尋ねた。
「お前がさっき言っていた『上司』とやらを消してその座につけば、階級が上がるんだよな? そうしたら、力も増えるんじゃないのか?」
「残念ながら、『願い』の力は増えねえよ。権力が少し増えるだけさ。――ああ、あと、雑務も増えるだろうな。間違いなくよ」
くっくっくと、悪魔は愉快そうに喉を鳴らした。
「――だがな、そこでだ」
他に誰もいないにもかかわらず、悪魔はきょろきょろと辺りを警戒したかと思うと、口の横に手をあてて耳打ちしてきた。
「裏ルール、その2だぜ」