「裏ルールを明かしてやるよ」
「――テメェ!」
露骨に顔をしかめた悪魔は、僕を邪険に椅子へと叩き戻した。抵抗せずに腰掛けると、反動でキャスターがギィーッと後ろに動く。
「大輔……、お前、オレを試しやがったのか!?」
「それがどうした?」
「悪魔だぞ、オレは!?」
「だからだよ」
僕は眼鏡をきっちりと掛け直すと、しわくちゃになったシャツの乱れを正した。
「いいか? 担当悪魔があまりにもアホだった場合、知力面での貢献が絶望的というのは把握しておく必要があるわけだ。とくに、『願い』でも不可能なことや、効果範囲、本来明かされないルールなど、僕が知る由もないことについては、お前だけが頼りとなる。もしお前が全力で僕のサポートをしたとしても、間抜けだったために目的を失敗するなんて事態は、絶対に避けなくてはならないんだ。そして、今は素の知力を労せず測れるタイミングだった。ならば当然、相方候補のチェックをやってしかるべきだろう?」
「だ、だが……。そうだ! これしきのこと、実際4つめ以降になったら誰でも気付くだろ! そうなってたら徹底的に願いが歪められるぜ!? どうするつもりだ!」
僕は大きく息を吐いた。
「もし今指摘されなかったら、もう少し後で、『それとなく僕が気付いて』、交互にするよう進言した」
「お前っ……!」
絶句した悪魔は、拳を固く握りしめたままうつむいたのち、全身をわなわなと震わせた。しばらくしてからガバッと顔を上げたそいつの眼光は、獲物を見つけた肉食獣のような輝きをたたえている。
「――いい度胸だっ! それぐらいでなきゃあ、オレも切り札を託す意味がねえ!」
悪魔は心底楽しそうな笑みを浮かべた。口元からは、異様にギザギザの歯がのぞく。
「裏ルールを明かしてやるよ! こいつを聞いたら、もう後戻りは出来ねえぜ!?」