「偉いと思うぜ」
しばらくして、真子が意識を回復した。
「気が付いたか」
公園のベンチに寝かせ直していた真子を見下ろすと、彼女は放心状態だった。
「あの、私は……」
「ああ、心配するな。全部終わった。エヴェレットは契約を解除して、悪魔達も帰ったぜ」
もっとも、改めて取り憑いた人間の魂を取ろうとするような、往生際の悪い悪魔も中にはいるかもしれないが、それは知ったことではない。まあ、さっき取り囲んだ悪魔達の数は相当なものだったし、アミエルご推薦の、トフォリの手腕に期待しよう。
「ところで、真子に聞きたいことがある」
僕は指を三本立てた。
「エヴェレットが持ちかけた願いの数は、3つだったのか?」
「えっ?」
真子は眼鏡の奥の目をパチクリしてみせた。
「そうじゃないんですか?」
「まあ、色々あるんだ」
僕は軽く流した。
「ただ、だとすると……、ジャマーで1つめ、不死で2つめ、災害を起こすで3つめじゃないか。最初から死ぬ気だったのか?」
問い詰める気はなかったが、口調が少し強くなったかもしれない。真子は眼鏡を外し、もう片方の手で静かに顔を覆った。さっきも泣いていたし、充血した目がさらに真っ赤になっていることだろう。
「すみません……。ごめんなさい……」
「――それを言う相手は、本来は両親だろうな」
真子の思い通りに進行しても、悪魔に頼った時点で彼女は命を落としていたわけだ。
また、眠らせたり市を壊滅させようとしたことを考えれば、彼らにも謝るべきかもしれないが、真子はすでに悔いているし、これからも悔いるだろうから、いま追い打ちのような真似をする必要はない。
僕は頭をかいた。
「そもそも、腹が立つだろ。ぶったり蹴ったりしてきた相手のせいで、自分が命を落とすなんてな」
「……」
「だが、真子は自分で助けを呼ぼうとしたんだ。そこは偉いと思うぜ」
「でも、結局……、悪魔に縋ってしまいましたけどね」
「あれは、エヴェレットがぎりぎりまで追い詰めてたんだろ。真子が自力で助かりそうになったから、そこで邪魔したんだよ」
――僕は、「助けて」という働きかけさえ出来なかったからな。僕は眼鏡をそっと掛け直した。
「僕達はこれから病院へ行くが、真子はどうする?」
「わ……私も、一緒に行きます」
真子は少しふらついていたが、それでも、しっかりと自分の足で立ち上がった。




