『3つめの願い』
僕がしれっと答えたら、エヴェレットの顔は更に赤くなった。
話についてこれていない真子は、エヴェレットと僕達との対立にオロオロするばかりだ。
「のぉ、真子殿」
そんな中、エヴェレットがやたら気色悪い猫なで声で、真子を懐柔にかかった。
「こやつら、我が輩と真子殿をペテンにかけおったのじゃよ。荒唐無稽な内容で病院の悪魔達も引っ掛けおってのお。まったく、助けるなどと大ボラを吹きおって、実際には思い切り足を引っ張りおったわけじゃ。性根の腐った、ロクでもない奴ばかりじゃよ」
少し手直ししただけで、自己紹介に早変わりの内容だ。
「このままやられっぱなしで良いのか? 見返してやるんじゃよ」
「え、えっと……」
「おーっと、真子ちゃんよぉ」
すかさずアミエルが、エヴェレットと真子の間に割って入った。
「『見返す』って言葉にすんなり頷くんじゃあないぜ? エヴェレットは今、タネがバレて相当焦ってる。見返すって、どうやってだ? まさか、『今すぐ大災害を引き起こす』ってのが見返すわけじゃあねえだろーなー?」
「む……? 当然、そうじゃ」
「うっわー、認めやがった」
呆れて果てるアミエル。
真子は、驚きを隠そうともせずにエヴェレットを見た。
「あの、悪魔さん。私さっき拒否しましたよね? 家族がいるから駄目って」
「事情は刻一刻と変わっておるのじゃ。それに、今ならば真子殿のターゲットにした奴らもさほど動いておらんじゃろうて。真子殿をイジメていた奴らに鉄槌を下せる唯一の機会を、みすみすフイにしてしまっても良いのかの?」
「それは……」
真子はうなだれた。じっと手を握り締め、肩を震わせる。
「それは……、出来ない……。それでも、お父さんとお母さんは巻き込めない……」
真子は眼鏡のまま涙を流した。
――どうやら、確定したな。僕はゆっくりと真子に近付いた。
これでもう、真子は災害を願わない。後は、引導を渡すだけだ。
「真子、救いが欲しいか」
頷く真子に、僕は耳元で囁いた。
「なら真子、罪を償うんだ」
「え、だ、大輔、さん……?」
「僕の本当の目的は、みんなを眠り病から起こすことだ。そしたら、裏で進行していた事件を知ってな、必ず食い止めようと思ったのさ。――未遂に終わったとはいえ、地震と噴火で市を破壊しようとした罪は、拭い去れるものじゃない」
「!」
「終わりだよ、川科真子。――救いが欲しいなら、僕の言うとおりにするんだ。『じっとしてろ』」
愕然とした表情の真子は、それでも、泣きながら頷いた。
「――ふむ」
エヴェレットは、もはや観念したのか、すっかり怒りは霧散していた。
「真子殿、何か涙を拭くものが欲しいかの?」
「はい……」
エヴェレットは虚空からハンカチを取り出した。それを真子に手渡した直後、真子の体がガクンと崩れ落ちる。死とは呆気ないものだ。
「ではな、人間」
右手に白い魂を握り締めたエヴェレットがマントを翻すと、そこに悪魔の姿はなく、ただ真子の亡骸だけが横たわっていた。
「18秒戻せ」




