「TVばっか見てると馬鹿になるぞ」
――そりゃあ見抜く奴はいるよな。ことにトフォリ、お前は気付くと思ったよ。
「仰ることが、よく、分かりませんが……」
僕はそれでもしらばっくれてみせたが。
「フフフ、そういう芝居はいいよ。先に協力したのは何のためだと思う? 力を貸すってことを示したかったんだよ」
トフォリは金髪をかき上げた。
「アミエルに聞いてるかもしれないけど、現在の仕組みは、上司に媚びた悪魔だけが甘い汁を吸えるんだ。そんなときに、わざわざ美味しくて大きな果実をもぎとらせたくはないのさ。――でもね、困ったことに、正面切って反逆する悪魔もなかなかいないんだよ。アミエルみたいに姿を固定されたり、あるいは、もっと悲惨なことになるからね」
「ですが、アミエルはまだ刃向かおうとしてるようですけれど」
「そうさ。だから上には目を付けられる。――現場からは、結構好かれてるんだけどね」
「そうですか? かなりイジられていた気もしますが」
「人気者だからこそだよ。普通、表立って罰を食らったら、そいつには近付かないよ? だって、自分も仲間だと思われたら、同じように罰を食らうかもしれないからね。でも、彼には、『忙亜市でエヴェレットが災害を起こすらしいぞ。今は参加者を募ってる』って情報が流れるし、彼がタダ乗りしても、誰も告げ口しない」
「それは……」
僕は眼光鋭くトフォリを見据えた。
「使い道があるから、だろ?」
「おっ、いいねぇ、それがキミの本性か。――うん、人間にしとくには勿体ないよ」
トフォリは軽くいなした。
「もちろん、持ちつ持たれつさ。――ただ、ボクの読みだと、アミエルが叛旗を翻したところで多分負ける。だから、さっきまでは、アミエルにそこまで肩入れする気はなかったんだよね」
「じゃあ、なぜ協力する気に?」
「そりゃあ……、キミだよ」
低い声と同時に視線を寄越すトフォリに、ぞくりと悪寒が走った。
「変だったんだよねぇ、さっさと魂を取るってアミエルは言ってたのにさ。だから、次に会うなら災害の後だと思ってたのに、キミを引き連れて病院に顔を出すなんて。普通じゃないよ」
「……」
「そこでピンときたのさ。ああ、これは願い関連で、よほどうまいことを持ちかけられたなって。――そうだねぇ、『アミエルの願いを叶える』とか。どう、あってるかい?」
外で日差しを浴びているときとは違った、嫌な汗がじっとりと脇を伝う。
「ところで、さっきのキミの仕掛け、面白いねぇ。少人数が気付いても、数の暴力で多数を煽れば、結局従うしかない……うん。愚か者が多数だと考えてる騙し方だよね。仕組みもキミが考えたの?」
「――大元はマスメディアだ」
「なるほど。『TVばっか見てると馬鹿になるぞ』だっけ? ――なかなか楽しい洗脳装置だよね、あれ」
トフォリは含み笑いをした。
「ともあれ、キミがつけばアミエルの成功率も上がると思ったんでね。だから、売り込みを掛けてみたのさ」
「……」
「困ったときは力になるからね。遠慮せずに、頼ってくれていいよ」
トフォリは僕の肩を叩くと、「さて、戻ろうか。どうせみんなと詳細をつめるんだろ?」と言って、先に戻っていった。
――とても頼りになるが、自らは決して危険地帯には踏み込まない奴か……。僕は大きく息を吐くと、重たい足取りで後を追った。
少しでも危ういと感じたら、敵につくってわけだ……。やれやれ、クセ者に目を付けられたな。
戻った僕は、悪魔達に細かく指示をだした。トフォリを始めとした面々は、極めて協力的だった。
――すでに賽は投げたんだ。迷っても仕方がない。あとは全力で突っ走るだけか。
事前の段取りを全て終えた僕は、眼鏡をしっかりと掛け直した。




