「ドス黒いことをするねえ、キミ」
「皆さん、これをお聞き下さい」
僕は沈痛な面持ちで、家電量販店で買った高性能の録音機を再生した。
『とすると、つまり、災害を起こさず、他の悪魔から得た魔力を回収して撤退すると?』
『まあのぉ~』
『実に……、えげつないですね。――この、悪魔め』
『くはははっ! そりゃあ、騙される方が悪いんじゃよ! 我が輩の一人勝ちじゃな! ワーッハッハッハ……!』
再生が終了すると、高笑いの余韻が残った病室前では、アミエルの顔なじみの悪魔達から、すっかり余裕が消え失せていた。
「ねぇ、ボウヤ……。なに、これ?」
「もちろん、エヴェレットの奴に問い質したときの会話ですよ」
僕はレモンにそう吐き捨てた。
「尻馬に乗ろうと挨拶に行ったら、僕に向かって、『そんなこと、本気でやると思っとったのか。いやはや、間抜けじゃのお』と抜かしてくれましてね。僕が、誑かされる側の人間だからか、はたまた何も出来ないと思っているからか、ペラペラと喋ってくれました。そのあと、こっそり録音したのがこのザマです」
僕は真剣な表情を崩さず、録音機の再生を続けた。
『実は地震と噴火には、莫大な魔力が必要なのじゃが、それを他の悪魔達に出させておってのお』
『なるほど』
『まあ、我が輩にかかれば、他の有象無象なぞ下僕よの! ハッハッハッハ……!』
笑いが終わるや、僕はすかさず終了ボタンを押して補足した。
「『地震と噴火分の魔力だ』とブチ上げて、派手に吹聴したら、集まる参加費だけでも莫大なものになります。美味しいエサをぶら下げといて、最後まで渡さない。サギの基本をやってたんですよ」
「そんなわけあるかよ!」
今まで一回も会話に参加してこなかった美形悪魔が怒号を浴びせてきた。
「エヴェレットは、実際に災害を起こした方がよっぽど稼げるんだぞ!? 仲間から奪って何がしたいってんだよ!」
「――オレ、心当たりあるぜ」
アミエルがぼそりと呟いた。
「これに参加させといて、結局魂が回収できずじまいって事になったら、まぁ、適当にそこらの人間をダマくらかして、なんとか辻褄を合わせるよな。だが、所詮はしょぼい稼ぎにしかならねえ。片や、エヴェレットはみんなの魔力を奪って潤沢だ。クソッタレの上司は、よく懐くあいつを次に指名して権力の維持を図りてぇが、それには何かしら理由が居る。けどよぉ、成績が優秀なら、文句もラクラク撥ね付けられるって話さ。貢ぎ物用の賄賂も、たんまり入ったことだしな」
「……っ!」
怒っていた悪魔は、顔を引き攣らせたのち、「くそっ!」と壁を殴った。
周りからは、「おいおい、どうするよ」「やってられっか!」「下りるわ、アタシ」などと、エヴェレットへの批難と怨嗟の声が聞こえてくる。
「――それで」
そんな中、トフォリが澄ました顔で口を開いた。
「大輔君、だったかな。キミは、どうしたいんだい?」
「ええ、おそらくエヴェレットは、このカラクリが皆さんにはバレてないと高をくくってますから、始めに魔力を返してもらうよう申し出た方々には素直に返すと思います。なので、僕が言うタイミングで、エヴェレットの元に取り立てにいってほしいんです」
「なるほどね」
トフォリはアミエル顔なじみの悪魔達に向き直った。
「という事だそうだよ、みんな。ボクは受けたいと思うけど、みんなはどうかな」
トフォリが先導すると、他の悪魔も口々に賛同してくれた。僕がお礼を述べると、そのトフォリから脇をつつかれる。
「話はついたし、ちょっと、他所にいこうか」
「あン? オレはいいのか」
「うん、大輔君にちょっと興味が湧いてね」
「オレの獲物取ンなよ」
「しないよ」
僕達二人が、目立たないように階段の踊り場へ行くと、早速トフォリが口を開いた。
「ドス黒いことをするねえ、キミ」
「なんのことですか」
「おやおや、とぼけるのは無しにしよう」
トフォリは両手でお手上げのポーズを作った。
「録音した内容、あれ、ごく一部だけだよね? キミが補足した内容と合わせると、たしかにエヴェレットが出し抜いたように聞こえるけど、それって大勢から恨みを買う方法だからね。これからも顔を合わせるのに、そんな手酷い裏切りをするかなぁ」
「と、言われましても……」
「だとするとね」
トフォリは取り合わず、僕を指差した。
「キミが、都合の良い情報だけを教えてくれたのかなぁって考えたわけさ。ねえ、どう思う?」




