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「ひとまず、願いを9つにしてくれ」「オッケー!」  作者: ラボアジA
第四章 情報を握るということ

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 ナマコ

「でも、真子さんは偉いですね」

「え?」


 僕は話を切り出すさい、まず彼女を持ち上げる所から入った。


「今まで、そんな嫌いな相手に、それも大勢いるなか、孤独に戦ってこられたんですから」

「えっ!? い、いえ、そんな、別に私はイジメられてなんか……」


 真子は大仰に両手を振り、首をぶんぶんと横に振るが、かえって痛々しい。


「大丈夫。――ここに敵はいませんから。心の中にあるわだかまりを、吐き出してみて下さい」


 僕が優しく声を掛けると、真子は深くうつむき、スカートをぎゅっと握り締めた。

 アミエルやエヴェレットが適当に混ぜっ返しながらも、彼女がぽつぽつと話した内容は、イジメという皮を被った、暴行、傷害、恐喝事件だった。

 始めは些細な事から始まったという。休み時間にトイレに行って戻ってくると、椅子をハデ目の女子に取られて、そこでバカ話をされていたのだ。席を返してもらうよう頼んだら、意外にすんなり返してもらえたが、どうもそこから目を付けられたらしく、おかしな髪の結わえ方をされたり、安物の口紅を塗りたくられたりという「大きなお世話」が始まったという。それを拒絶すると、「生意気だ」と腹を蹴られたり、目にレーザーを当てられたりと次第にエスカレート。金は取られ、お気に入りだった小物は壊され、いいオモチャとして引きずり回されたらしい。


「ナマコって言われてたんですよ」


 真子はぽつりと漏らした。


川科かわしな真子まこだから、ナマコ。――もちろん、気付いてはいました。自分の名前がそんなふうに区切れることぐらいは。でも、それを他人から呼ばれたことはなくて。――もっとも、最後の方は人扱いされなかったですから、お似合いだったのかもしれません」

「真子さんは、自分の名前がお嫌いですか?」


 真子は首を横に振った。


「結局、何かしらのアダ名をつけられてイジメられたでしょうから」

「――同感です」


 僕はゆっくりと首肯してみせると、真子はふと顔を上げた。


「あ、でも。名前のせいで、凄くイヤな思いはしましたね」

「それは、どんなですか?」

「パシリで買い出しに行かされた、その帰りです。綺麗な女の子とぶつかったんですね。で、買ったものを辺りにぶちまけてしまったとき……」

「おっ!」


 出し抜けに、アミエルが指を鳴らした。


「分かった、踏まれたんだろ」

「いえ」


 真子はすげなく否定した。


「ちゃんと拾ってくれました。で、そのとき、ご丁寧に名乗ってくれたんですね。『私は神無月かんなづき菜々子ななこって言うの』と」

「……」


 僕が横目で見ると、流石にこれはアミエルも弁えていたのか、神妙な面持ちで聞いていた。


「私の名前を聞かれたので答えたら、『あ、じゃあナマコちゃんだね』と明るく言われまして。聞いてもいないのに、『私もきなこって呼ばれてるんだ。トコブシ君とかもいるんだよ』などと喋ってくれたんです。そのあと、『何か困ったことがあったら言ってね』と言い残し、トコブシ君と呼ばれた男の子と仲良く去っていきました」

「……」

「正直……、それこそ、ムカつきましたね。いきなり出てきて、自分の何が分かるのか……。よく思われたいだけ、結局口だけでしょうって……。楽しそうにしている奴が、みんな憎くなりました」


 ――そいつは、あぁ……。痛いほど分かるぜ。僕は顔を伏せた。

 きなこは、陰か陽かと言われたら、陽だ。対して、僕や真子は陰だ。

 だから、僕も最初はムカついたよ。そういう明るい奴に、日陰の気持ちの何が分かるんだってな。――それで、取り返しの付かない寸前までいった。

 あと、真子。お前は、いきなり出てきて何が分かるんだと怒ったが、陰の僕には、それこそ初対面でペラペラ喋ってるじゃないか。まあ、自分と似てるってことなんだろうが、その相手は、今からお前を破滅に導くんだぜ?

 真子の話に相槌を打ちつつ、僕は眼鏡のつるをそっとなでた。

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