「とんでもない拾いモノだったよ、お前は」
「アミエル。お前は演技に乗り気じゃないようだったが、意外にやるじゃないか」
裏道へ入ってすぐに眼鏡拭きを取り出した僕は、念入りに眼鏡を拭き始めた。
「演劇でもやればどうだ?」
「ククク、冗談抜かせ」
アミエルは鼻で笑った。
「だが、この話は、下克上のやりやすさにもかかわってくるんでな。やるからには気合いを入れたぜ」
病院の昏睡患者の中でも、アミエルの顔なじみの悪魔が多くいる所へ足を運び、敵についている悪魔――エヴェレットへの疑念を植え付けた。
これは小さなもので構わない。ちっぽけな、取るに足らないシミのようなもので良い。
「証拠があれば、ひっくり返る」
不信感がくすぶっていることを確認できたのは大きい。
満足がいくほど眼鏡が拭けた僕は、大きく息を吐いたのち、しっかりと掛け直した。
「この状態が、大事なんだ」
「お前の手口が分からんな。『願い』をどう使うんだ?」
「ん、なぜ使うんだ」
「はぁっ?」
アミエルは呆気に取られた。
「だってよぉ、どうやってハメるかっつったら、『願い』を使うしかねえだろーがよぉ」
「おいおい、どうして少しの手間を惜しんで、大切な願いを1つ消費しないといけないんだ」
僕は溜め息をついた。
「ステルスも不死も、僕の力が及ぶ範疇を超えている。だから、願う価値があった。だが、現状は概ね予想どおりだ。とくに願いが必要とは思わないな」
「『願い』なしでどうする気だよ。――いや、失敗するなら失敗でもオレはいーんだがよ。それでも、なんだか不安になってきたぜ」
「そうか。なら、行く場所は教えておこう」
僕は人差し指を立てた。
「このあとは、少し寄り道したのち、敵とエヴェレットに会いに行く」
「!」
アミエルは目を見開いた。
「おいおい、大輔。お前さっき、アドバンテージがどうこうって抜かしてたじゃねえか。オレはてっきり、最後まで会わねぇ気かと思ったが……。いいのかよ?」
「ああ。場所は分かってるんだろ? 教えろよ。代わりに、面白い出し物を特等席で見せてやる」
「大輔、てめぇ……」
アミエルはしばし震えたのち、腹の底から笑い声を上げた。
「とんでもない拾いモノだったよ、お前は」
「僕は落ちていないぞ。堕ちているのはお前だ、悪魔」




