「殺すアテがあるんだな」
まず、録音した内容を再度聞くと、やはり妙な違和感があったので、アミエルに聞いてみた。
「アミエル。眠り病患者を眠らせているのは別々の悪魔らしいが、300人が眠っているとしたら300体の悪魔がいるのか」
「そうだぜ」
アミエルはベッドでふて寝していた。
「オレたち悪魔ってのはよぉ、いざ契約すると、一途に一人を追いかけ回すのさ」
「すぐにうち捨てて、別の奴に走るんだろ」
「捨てねえよ。ちゃーんと魂は回収するからな」
アミエルはごろりと寝返りをうって僕のほうを向いた。
「あ~あ、苦労に見合った見返りがあるとはいえ、ヒネた奴だよなあ、お前。本当は、さくっと回収予定だったんだぜ?」
「そこだ」
僕はすかさず指摘した。
「アミエルは、どうやって僕を回収するつもりだった?」
「あン? そりゃ、3つの願いで契約して、適当に願いを叶えて魂取ってたぜ」
「――そこが、違うんだよな」
「んんっ?」
僕の言葉に、アミエルが首をひねりつつ上半身を起こした。
「何が違うんだ」
「なぜお前以外の悪魔達は、ただ眠らせるだけで、魂を取らないんだ? 何が違う?」
「ああ、そりゃ夢の中では、願いを叶えるだけで魂を取れないからだぜ」
アミエルは事も無げに答えた。
「夢で願いを叶えるとな、夢をその方向に修正するだけで済むから、魔力をほとんど使わねぇのさ。――余談だが、夢の中なら、どの悪魔も太っ腹だぜ~ぇ? なんせ、バカでかい願いを申請すればするほど、懐に仕舞い込める魔力が増えるんだからよぉ。魂のノルマに気をつけつつ、あとはずっと眠らせる分の魔力だけ使ってりゃ、残りは丸ごと自分のものになるっていう、悪魔にしてみりゃ、まさに夢の話なのさ」
さりげなくうまいことを言うアミエル。
「で、だ。楽々と3つの願いを叶えたあとは、魂を取るだけなんだが、そうは問屋がおろさねえ。回収しようとしたときに、わずかだが『起きる』時間が存在するんだよ。起きちまったら、夢の中で叶えたものは御破算だ。だから俺はやらねえのさ」
「なるほどな。悪魔は人間に危害を及ぼせないから、眠って叶えた状態で殺すことも出来ないわけか」
「そういうこった」
「――だとすると、他の悪魔は、何か殺すアテがあるんだな」
僕が何気なくそう呟くと、アミエルはニタリと笑みを浮かべた。




