『2つめの願い』
「お、いいペースだな、大輔」
質問攻めで疲労しているように見えたアミエルだったが、願いを言うとなるとウキウキした足取りで近寄ってきた。現金な奴である。
「それで、願いはなんだ?」
「ああ、これはバリエーションが多いと思うが、あらゆる災難から命を守りたい」
「あぁ~、はいはい。不死だな」
アミエルは、したり顔で頷いた。
「そうだなぁ、たしかに多いぜ。多すぎて、パックになってるぐらいだ」
「パック? 何だ、それは」
「毒とか病気とか、はたまた呪いとかよお、いちいちそのたびに漏れがないかどうかのチェックをやってたらキリがないだろ? だから、予めその辺を全部網羅したパックがあるんだよ」
「麻痺や洗脳、乗っ取りなどは大丈夫なのか?」
「その辺の対策もばっちりだ。えーっと、やっぱコイツを見るか」
アミエルは再び辞典を取り出した。今回は分かり易かったのか、すぐに該当ページを指し示す。
「不死のパックだがなぁ、圧死、轢死、焼死、溺死、窒息死などなど、ありとあらゆる死亡から蘇生、再生できるってやつだ。あとは、四肢切断とかにも対応してるな。あー、もちろん首切断からも回復できるし、灰になっても蘇る。くたばるのは老衰だけだぜ」
「痛みはどうなんだ」
「さっきのステルス同様、自分の裁量で動かせる。デフォルトは全部を自動カットだが、加減が分からねえと却って馬鹿みてぇな骨折が増えるんでな。少しは痛覚を残しとくことをお勧めするぜ」
「不老はないのか?」
「そっちはまた別口だ。ちなみに、現時点から全盛期の年齢までの、いずれの姿にもなれるってやつだが、本来の老衰死の年齢には抗えない仕組みになってるぜ」
ふむ。不老と不死は別物か。まあ、今のところ、不老については用事がない。
「アミエル、不死を願いたいが、注意事項はあるか」
「うーむ……。いや、これについてはパックが優秀過ぎるからな。オレが思いつきそうな殺害方法は残らず対策を打たれてるだろうよ。――ああ、ただな」
アミエルは、思い出したように指を一本立てた。
「勘違いしがちだが、不死ってのは、無敵じゃねえんだ。さっき麻痺には抵抗できるっつったが、たとえば物理的にロープでぐるぐる巻きにされちまったら、脱出はできねえだろ? あと、重りをつけて海に沈められたら、死なねーけど沈みっぱなしだ。不死を過信したがために詰んじまった奴の話は、結構多いんだぜ?」
「なるほど、肝に銘じておこう」
「そして、もう一個面倒臭いことがある」
「ん、なんだ?」
「いや、何……。改めて言うとなると、バツが悪いんだが……」
横を向きつつ、はげ頭をなでるアミエル。
「どうした、やけに歯切れが悪いな。言えよ」
僕が先を促すと、アミエルは深刻な顔で続けた。
「列挙内容を、オレが書き写すのが面倒臭い」
「なんだ。――書け」




