「ゲームはほどほどにしとけよ?」
「アミエル。最後に見落としがないか確認だ。隠密、思考妨害、警報の願いについて、これは伝えるべきという事柄はないか?」
「ふむ。そんじゃまず、ステルスの注意点だがな。姿を認識出来なくさせるといっても、質量まで消えるわけじゃねえ。満員電車に入ったら押し潰されるってこった」
「なるほど」
「次は、アラームだがな。こいつは、『普通』の潜入に必ず気付くってやつなんだ。そしてジャマーも、そこに引っ掛かる『普通』の発想をしたら必ず妨害してくるってやつなわけさ。だから、アラームと考え方は同じなんだよ。どっちも『普通』のものに対しての防御であって、『願い』を使ってすり抜けるなんつー事態を想定してねえ。『ステルス』に気付くにゃあ、『ステルスに気付くアラーム』を、わざわざ別枠で願う必要があるのさ。逆に言うと、願っていた場合は、ステルスも引っ掛かる。あとは、それをする相手かどうかだな」
「そうか」
――相手の警戒レベル次第、か。僕は眼鏡のブリッジを中指で押し上げた。
さて……、どの程度用心深い奴か、だな。
仮に、これをやっても思考を逸らされたら……。
――まあ、逸らされた時か。
僕は人差し指を立てた。
「よし、いいだろう。アミエル、一つめの願いは『変動可能のステルス』にする」
「オッケー」
アミエルが何事かぶつぶつと呟いたかと思うと、胸のあたりに白く光る逆五芒星が浮かんだ。それが徐々に薄れていき、ついには消える。
「よっし、願いは叶えたぜ」
思ったよりも地味だった。派手なエフェクトなどはおまけらしい。
「ステルス状態の変動ってのは、感覚で分かるはずだ。あと、オレにゃ効かねえからな」
「残念。雲隠れは無理か」
「させねえよ」
軽く冗談を交わしたのち、僕はステルスを使ってみた。
「アミエル」
「聞こえてるっつーの」
「やはり駄目か」
「そんなに逃げてぇのかよ」
「参考までに、どうやったら悪魔との契約を解除できるんだ?」
「直後に聞くたぁいい度胸だな。悪魔が解除したいと思ったときだよ」
「正直に答えるお前も、大概いい度胸してるぜ」
僕は静かに部屋を出てみた。ちょうど妹の沙織があぐらをかいてTVゲームをしていたので、声を掛けてみる。
「沙織。――バーカ」
僕の呼びかけに、沙織は振り向かない。だが、これだけではゲームに熱中しているからとも考えられる。
僕は、TVと沙織との間に立ってみた。普通なら「お兄ちゃん、邪魔!」ぐらい言ってくるはずだが、変わらず一心不乱にプレイしている。
――ふむ。目立たない石というより、透明人間になったようだな。
百聞は一見に如かずか。アミエルの喩えは合っていたが、やはり自分でやってみないと正確なところは分からない。
次は、徐々にステルスを解いてみた。
「うわっ!?」
まだかなりのステルス状態だったが、意外に早く気付いたらしい。沙織は後ろにひっくり返った。
「えぇっ!? お、お兄ちゃん、何時からいたの!?」
「沙織、夏休みの自由研究は終わったのか?」
すかさず質問をして、相手の疑問を封殺する。
「もう小五にもなったら、母さん達も手伝わないぞ」
「いや、ちょ、ちょっと待って! お兄ちゃん、さっき急に出てきた……!」
「何をおかしな事を言ってるんだ? まったく、ゲームはほどほどにしとけよ?」
沙織が「えっ……、えーっ!?」としきりに驚きの声を上げるのを尻目に、僕は悠々と自室に戻った。




