ステルス
僕はアミエルの言葉に首を傾げた。
「――そうか?」
「ああ、シブいもシブい。ジャマーへの対策はともかく、『警戒をしている奴への警戒』だとか、フツーじゃねえよ」
「そういうものか」
「だってお前、こういうステルス系の『願い』の使い道は、圧倒的にエロ目的だぞ? あとは……、銀行強盗とかかぁ? じゃなきゃ、とても欲望をむき出しにした発想じゃねえよ」
「と言われても、僕が現状一番欲しいのは、正にそのステルスなんだがな」
「へいへい。じゃあ、ええっと、最大限な……。ちょっと待ってろ」
アミエルは虚空から分厚い本を出現させた。
「こいつはな、いわば『願い』の辞典と呼ばれるやつで、どこまでがOKでどこまでがダメか書いてあるものさ。まあ、法律における六法全書みてえなモンだ」
アミエルはぱらぱらとページをくり始めた。
「別にこいつを読み込んでも、弁護士や検事、はたまた裁判官にゃあなれねえが、まともに叶えるイイコちゃんの一派は読み込むらしいぜ~ぇ……っと、おぉ、これだこれだ」
アミエルは、無事に該当箇所を見つけたらしく、ページの文面をつーっとなぞった。
「えーっとなあ、お前の望んでいる願いの大枠は、やっぱ『ステルス』ってやつだ。厳重な警備のなされた施設に、誰にも気付かれず忍び込むことが出来るっつー、いわば透明人間になれる願いだな。オプションで、ステルス状態をゼロからマックスまで切り替えられる仕様もつけられる。――たまに忘れる奴がいるんだよな~、コレ。そんな間抜けは、もう一個願いを消費だぜ」
事態を想像すると、なかなかにイヤらしい罠だ。
「あと、全開で発動したときゃあ、大勢いるなかで絶叫しようと気付かれないぜ」
「そのステルスだが、『願い』で思考を妨害したり、警戒している奴にも気付かれないか?」
「ああ」
「もうひとつ。思考だけステルスを発動させつつ、肉体の方はステルスを発動しないという事は出来るか?」
「お前、すげぇルールの隅っこをつつくなあ……」
アミエルは、ぼやきながらもページを読み込んだ。そして。
「ああ、オッケーだ。それぞれが独立して変えられるぜ。――ったく、ジャマーなんかで載ってるわけねーだろ。『読心』対策のあたりなら載ってると気付いたオレを褒めろ」
「心を読む……なるほどな。よくやった、アミエル」
望んだ回答をもたらしたアミエルに、僕は労いの言葉をかけた。




