「過去に相当なトラウマがあったな、オイ」
「いや~、まったく、面白い奴がいたもんだぜ」
どこから取り出したのか、アミエルはシャボン玉を辺り一面に吹き散らかした。
「思考妨害――それも広範囲だな。このテの『願い』は、妨害する内容を絞れば絞るほど範囲を広げられる。マイナーな事案が対象なら、ヘタすりゃ世界丸ごとかもな」
「ああ……。ならば、その……うっく! えぇっと……、あぁ、くそっ! 酷い妨害だな!」
深く考えると『思考をリセット』されるらしいので、先に『思考を散らした』が、それでは結局意味がない。
――こいつをどうにかしないと、そもそも「考えられない」のか。
僕は、ジャマー対策を最優先に据えることにした。
「アミエル。これは一般論だが、不特定多数に何かを考えさせたくないとき、思考を逸らすことは可能か?」
「ああ、お前が今食らってる通りだよ」
「それは、いっぺんに可能か」
「そうだな、人間をターゲットにすると一人ずつになっちまうが、そんなときゃあ場所を指定すればいいのさ。この『眠り病』に関してならな」
「その名を出すな!」
思考が戻るだろ! なんのために一般論にしたと思ってるんだ!? 苛立つ僕に対し、アミエルはとても楽しそうに笑った。
――くそっ、抽象的じゃダメだ。ちゃんと形のある物にしよう。
「眼鏡だ」
僕の口から、とっさに出たのがそれだった。
「いいか、アミエル。僕が、自分のお気に入りの眼鏡を着けているとき、それについて反対意見や邪魔立てなどされたくない場合、『僕の眼鏡について考えさせない。範囲は地球上』ということは出来るか」
「ああ、出来るぜ。ちゃ~んとお前だけを除外してな」
アミエルは、僕の顔の上半分に向かって、指でぐるぐると楕円を描いた。
「それにしても、たとえ話で眼鏡か……。くくく、過去に相当なトラウマがあったな、オイ?」
口の減らないアミエルを無視し、僕は人差し指で眼鏡のつるを弄った。満足のいく位置に落ち着くと、その指を前に出す。
「アミエル、『願い』を使いたいが、その前にいくつか確認をしておく」




