「なんで誰も不思議に思わないんだろうな」
「ところで大輔、眠り病についてなんだがよぉ、他に何か知ってること、あるいは気付いたことはないか?」
「そうだな」
僕はアゴに手を当てた。
「親父は病院でこれにかかりきりだ。運び込まれてくる新たな眠り病患者を診ているらしい。容体はみな落ち着いているそうだ」
「ふぅん」
アミエルはさらにニヤニヤと笑う。
「あのよぉ……。普通なら、もっと大騒ぎになってると思わないか?」
僕は首を傾げた。
「――そう、か?」
「ああ。らしくないぜ。お前、たかだか数万人かそこらの地方都市で、300人が眠りこけてるんだろ? 大事件じゃねえか。なんでここにだけ発生したのか、なんで誰もパニックにならないのか、そして、『なんで誰もそのことを不思議に思わないのか』……。くくく、もう一度言うぜ? なんで誰も不思議に思わないんだろうな、オイ?」
たしかに、変……か? 僕がそのことに微かな違和感を覚えると、途端に頭が痛み出した。幸い、すぐに痛みは霧散する。
――えっと……。なんだ?
ん、む……、何を考えていた?
もやもやとした、形にならない思考だけがある。――ああ、そうだ。きなこの事だ。あいつを起こす。ただ、あいつだけを起こしてもあいつが気に病む。だからいっぺんに起こさないと……。
「おいおい、マジでハマってるな」
アミエルの、呆れとも苦笑ともつかぬ声が聞こえた。
「お前よお……。眠り病患者が、多すぎるだろ? 今、300人だっけか? ったく、これしきのことで手こずるたぁ、ハタから見てると滑稽極まりないぜ」
――そうだ、眠り病患者のことだった。きなこも眠っているんだ。その原因は……うっ!
理由を考えようとしたら頭痛が生じた。幸いすぐに止む。
「ったく、処置なしだなこりゃ。本当、うめーことやりやがる」
そばでは、なぜかアミエルが残念なものを見る目を僕に向けつつ、頭を軽く振っていた。




