「今の話が、『理解出来ねえだろ』」
「大輔よ。眠り病に冒された人間を全員起こすと言ったが、大変残念なことが3つある。まず、願いでターゲットに出来るのは1人ずつだ。300人起こすなら、300個願いがいる」
人差し指を立てていたアミエルは、次に中指も起こした。
「次に、眠らせているのはそれぞれ別の悪魔だ。起こすとなったら、利害関係が発生するから、『願い』とは別に、ちょいと交渉が必要になる。300人ってのは骨が折れるぜ~ぇ」
最後にアミエルは、親指を立てた。
「そして、こいつがトドメだが……、お前、今の話が、『理解出来ねえだろ』」
アミエルが妙なことを言った。理解できない? バカな、極めて分かり易かった。
眠り病に冒された人間を……ん?
軽く頭痛がしたので、額を押さえた。幸い、すぐに収まる。
えぇっと、眠り病を……。
――どうしたんだ?
額の手を滑らせて、口を覆う。椅子の座席に足を乗せ、片膝を立てて体全体で抱え込むようにして、熟考しやすい体勢をとる。
どこまで考えていた。――ああ、そうだ。眠り病にかかった幼なじみ、きなこを助けるんだ。幸い、悪魔の「願い」がある。協力態勢は築いたから、助けられるだろう。だが、きなこは自分が助かっただけではよしとしない。ならば、他の人間も全員助けよう……。
「悪魔よ、願いがある」
僕は姿勢を正すと、眼鏡をくいっと弄った。
「この忙亜市には、現在、眠り病が流行っていてな……」
「はいはい。市内にゃあ300人ほど眠ったまま起きない人間がいるから、全員起こしたいんだろ?」
苦笑するアミエルに、僕は眉をひそめた。
「推測できても、先回りして言うな」
「くっくっく……。いや、こいつはすまねえ。ちょいと面白くてな」
アミエルは品のないひきつり笑いをしつつ、顔を押さえた。




