眠り病
「ああ、大輔。分かってる、みなまで言うな」
いつの間にか僕のそばまで近寄っていたアミエルは、おどけたように両手で制した。
「そうだよなぁ、小さい頃からずっと一緒に育ってきた、器量よしの幼なじみ……。ションベン臭いガキだと思ってたら、いつの間にかぐんぐん色っぽくなってきやがって、そりゃあ、好きになるなって方が無理だよな~ぁ」
「そんなんじゃあないぜ」
「くっくっ、照れるなよオイ。胸が張り裂けそうな恋心を抱いちまったか? あるいは、もっとドロドロした欲望かな?」
僕が舌打ちすると、アミエルはおかしそうに手で否定した。
「――あぁ、別に茶化してるわけじゃねえんだ。恋愛ってのは大事だぜ? かくいうオレもよぉ、下克上したアカツキにゃ、『真実の愛』とか探すつもりだからよ」
アミエルは「ああ、そうだ」と手を叩いた。
「もう、今だから言っちまうがな、大輔が菜々子を助けたいとか願ったら、まあ揚げ足取って歪めまくって、さっさと3つ叶えた体裁を作って魂ブン盗ってたぜ」
「大したサギ師だな」
「おいおい、そいつぁ上司に言ってくれ。うちの営業方針がそれなんだからよ」
アミエルは、禿げた頭をつるりとなでた。二本の触覚も一緒になでていたのか、最後に両方ともビヨンと跳ねる。
「まーったく、事務方の連中ときたら、上司の『金魚のフン』みてぇな奴ばっかりでな。面従腹背っつーのか? 内心はムカついてるのに、睨まれるのが怖ぇからペコペコしてんだよ。その挙げ句が、あこぎな商売を誰も注意しねえ構図だ。こいつをやると、目先の収入こそ増えるンだが、結局は、人間の引っかかる量が減っちまって、魂の回収量は先細りになるんだよ」
アミエルはベッドに腰掛けて腕を組んだ。
「ケッ、オレが折角、今みてぇなことを懇切丁寧に教えてやってるっつーのに、ノルマ、ノルマと尻ばかり叩きやがって。そのくせ、願いを叶えるための魔力量はケチって、上納分はしっかり取り立てるんだぜ? あいつ、マジで魔力貯め込んでンだろ」
現場と上層部との確執は、魔界でもあるらしい。
「ンで、大輔。どうすんだ? 菜々子を起こすのか?」
「ああ、いや……それだけだと完全な解決にならない」
僕は手で制した。
「この忙亜市には、現在、眠り病が流行っていてな。市内だけで300人ほど眠ったまま起きない人間がいるんだ。それを全員起こしたい」
「――へえ」
なぜかアミエルは、うっすらと笑みを浮かべた。




