「なあ、悪魔よ。――お前こそ、願いを叶えたくないか?」
「ひとまず、願いを100個にしてくれ」
「イヤだね!」
自室のキャスター椅子に座る僕に向かって、青灰色の肌の悪魔はせせら笑った。
「まあな、そいつぁ人間相手の商売やってるとよぉ、ほとんど挨拶みたいなもんだってのは分かるぜ? ダメ元でやってみたい願いの筆頭だよな」
悪魔は自身の着ている花柄アロハシャツを掴むと、前後にパタパタと扇いだ。
「無尽蔵な欲望を丸ごと満たせて、そのくせ魂は取られずに済む。飽きるまで楽しんだら、さっさとオッ死んでハイさよなら。残るは地団駄を踏む悪魔だけ……」
悪魔はつるりと禿げ上がった頭から生える二本の触覚のうち、一本をつまんで指でピンと弾くと、僕のベッドに仰向けにダイブした。ボフンと大きくバウンドしたのち、両手を組んで後頭部に回す。
「ま~ぁ、そりゃちょいと、ムシが良すぎるわな」
ベージュの短パンから伸びた細っこい足を交差させ、それと一緒にくるりと全身を向ける悪魔。ニュートンに喧嘩を売るかのように、ベッドの上でゆらゆらと浮遊してみせる。
「さて、では改めて契約内容の確認だ。願いは3つ叶えよう。代価はお前、須賀部大輔の魂だぜ」
爪まで青く染まった右手の指を三本立て、ずいっと前に突き出す悪魔。それを、優美な手首の返しとともに、人差し指だけにしてみせる。
「さあ、言えよ。1つめの願いを」
僕は、中指でゆっくりと眼鏡を直したのち、悪魔を正面から見据えた。
「なあ、悪魔よ。――お前こそ、願いを叶えたくないか?」