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瞑想世界9
無いが、やるしかないだろうと、田村は言った。
涙が出切ったところで、妄想は消え失せたのだが、りんごの右回転チャクラも消えてしまった。
混乱したまま僕は喚き散らした。
「ふざけるなよ。死ぬと思ったぜ。畜生!」
涙を拭っている僕を凝視しながら、相変わらずの冷静な口調で田村が言った。
「最初からやり直しだな」
僕は動揺を隠せないまましきりに頷き、再度喚いた。
「しかしだよ。瞑想が完成して位相の穴が開き、異なる世界に旅立つのは今なのか?」
田村が答える。
「いや、今ではない」
僕は目を見開き怒鳴った。
「ならば、旅立つ前に瞑想を中断するのか?!」
「いや、そんな器用な真似は出来ないだろう」
「だったら、どうするんだ?!」
田村が穏やかな口調で答える。
「旅立ったら、旅立ったで、又戻って来るしかあるまい」
僕は食ってかかった。
「戻れる保障なんかあるのかよ?!」
田村が無機質な感じで答えた。
「ないが、やるしかないだろう」