瞑想世界85
俺は両親に対する怨みを、意気地に変えて生き抜いて来たのだと、村瀬は言った。
村瀬が己の闘争心を鼓舞するように微笑み言った。
「親戚の家では俺は虐待され、絶食を強いられていた。腹が空いたと泣けば、寒い夜ベランダに出され、俺は空腹を抱え、震えていた。そんな時、俺は自分を棄てた母親を呪った。八つ裂きにしてやろうと考えたが、ちびの俺は無力だ。だから俺は己の呪いを瞑想に変えて、この聖地に辿り着いたのだ」
田村が尋ねる。
「呪いを掛ける為に、村瀬、貴様は瞑想術をマスターしたのか?」
村瀬がしきりに頷き答えた。
「その通り。しかし俺には不可知としての空洞が有ったわけだ。それがお前らの存在であり、貴様らが現れた事により、呪いは完成を見たわけだ」
田村が言った。
「村瀬、お前の父親はお前を愛していたのだろう。仕事で忙しくてお前に構ってはいられなかったのだが、愛してはいたのだろう。違うのか?」
村瀬が人事のように冷酷に答えた。
「あいつは賭博とドラッグに狂い自己破産して、愛人宅に引きこもり、薬三昧のひも生活。あんな卑しくも情けない男に俺は、愛情など貰った事は露程も無い。俺は中学卒業と同時にアルバイトを始め、自力で夜間高校に通い、特待生として大学に入学したんだ。俺は誰よりも孤独で寂しく、不安に震えていたのだが、両親への復讐をバネに、俺はその呪いを糧に生き抜いて来たのだ」
田村が静かな口調で言った。
「村瀬、お前は憐れな奴なのだな」
村瀬が微笑み言った。
「有難う」




