73/270
瞑想世界73
馬鹿め。それは俺だと、村瀬が言った。
生理的な欲求が全て失せた状態で、二人して迷路をさ迷っていると村瀬が現れた。
林道の奥。
村瀬は赤いパラソルで青いビー玉を、まるでゴルフのパターのように転がし楽しんでいる。
それは時間の経過しない世界の中で、超現実的な流動性を持つ光景で正に異様な光景だと僕は感じた。
僕は村瀬に対する殺意が抑えられず、思わず罵った。
「朝鮮人!」
村瀬が手を止めて僕の方に顔を向け言った。
「朝鮮人と馬鹿にする奴が一番馬鹿だ」
僕が激昂して身構え襲いかかろうとするのを田村が引き止め言った。
「村瀬、成実ちゃんはどこだ?」
村瀬が酷薄な笑みを湛えて言った。
「あの女は俺が犯し食った」
僕は頬を引き攣らせ喚いた。
「嘘だ。俺はさっきお前を恋しがっている成実ちゃんに会ったぞ。嘘を言うな!」
村瀬が赤いパラソルを無造作に雑木林に投げ込み言った。
「馬鹿め。それは俺だ」




