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瞑想世界45
朝鮮人、田村を返せ!と僕は叫んだ。
田村に対する情けと憎悪が、僕の心の内側で激しくせめぎ合う。
その憎悪を抜くべく僕は村瀬に殺意を向けた。
「朝鮮人死ね!」
僕の繰り出したパンチを村瀬が軽くいなすようにかわし、成実ちゃんの金切り声を出した。
僕は闘う事にうろたえ、悲しみを覚え涙ぐむが、それを村瀬に対する憎悪で跳ね返す。
瞑想装置になりたいのか、人間の尊厳に留まりたいのか分からない中間形態の心はひたすら混乱を来たし、軋んで行く。
僕は涙を拭い声を限りに叫んだ。
「朝鮮人、朝鮮人、朝鮮人!」
成実ちゃんの金切り声が、僕の朝鮮人という叫び声をかき消し、僕はその衝撃に、頭の中の青いビー玉が揺れ縮むのを感じながら、叫び返した。
「朝鮮人、田村を返せ!」




