262/270
瞑想世界262
村瀬は朝鮮人差別に対する憤りと同じ位、自分に対する劣等感を抱いていたのだなと、田村が言った。
成美ちゃんが語る。
「余り色々なエピソードを話しても、私自身が悲しくなって来るので、それじゃ一つだけ村瀬さんの心の美しさを浮き彫りにする話しをしますね」
ベンチに座って通信瞑想を行っている僕は。行き交う人々に流し目をくれてから、足を組み直し、再度聞き耳を立てた。
成美ちゃんが続ける。
「二人して浜辺で海を見ている時、村瀬さんが二人で死のうと言って来たのです。私は少しだけ躊躇ってから心中を承諾したのですが、村瀬さんがやっぱり止そうと言ったので、私は何故と問い返したら、俺みたいな低能な朝鮮人は君と死ぬ価値なんか無いのさと言ったのです。あの時の村瀬さんの悲しそうな目付きは印象的でした」
少し間を置いてから田村が言った。
「村瀬は朝鮮人差別に対する怒りと同じ位、自分に対する劣等感を抱いていたのだな…」




