瞑想世界237
母さんの家に帰るんだと、僕は喚いた。
成美ちゃんが続ける。
「あなたは瞑想装置なのよ。だから早くその事を悟り、余計な苦しみから解放されるべきなのよ」
僕はひたすら拒む。
「ふざけた事を言うな。お前だって村瀬への慕情が断ち切れず、村瀬を追ったではないか。お前だってはかない人間存在じゃないか。違うのか?」
成美ちゃんが認める。
「そう、私も確かに未完成な瞑想装置なのよ。だから私はあなたの気持ちが分かり、こうしてアドバイスしているのよ。同じ仲間としてね。それは田村さんも同じなのよ」
僕は怒りのままに言った。
「村瀬はどうなんだ。村瀬は何故話し掛けて来ないんだ?!」
成美ちゃんが答える。
「残念ながら村瀬さんは瞑想装置の完成体であり、人間の心は持っていないのよ」
僕はせせら笑い言った。
「お前は無として、そんな村瀬に寄り添っている事を喜んでいるのか?」
成美ちゃんが肯定した。
「確かにその通りね。私は村瀬さんやあなたに寄り添い、人間存在の残像に名残惜しんでいるわ。でも私はやがてこの愛着がなくなる事が分かっている存在でもあるのよ。だからその事実をあなたに伝えているのよ」
僕は嘲笑い言った。
「俺はこうして人間の姿をして、大勢の人間が行き交う道を歩いている。それのどこが錯覚なのだ。幻想なのだ。その証拠を見せてみろ?!」
成美ちゃんが答える。
「あなたの執着が解ければ、その世界は直ぐに消失するわ。全て愛着が生んでいる残像に過ぎないのよ」
僕はもう一度怒鳴った。
「俺は母さんの家に帰るんだ!」




