瞑想世界236
僕は怒鳴った。
遮断をかい潜って、成美ちゃんの通信瞑想が届く。
「あなたのお母さんは人間存在における死を迎えただけで、絶対死は迎えていないのよ。だから無としてあなたに寄り添い、あなたはその無を愛着に沿って母と見做し、錯覚を見ているに過ぎないのよ。その事情を理解しないと苦しみはいつまでも続くのよ」
僕は拒んだ。
「俺の母さんは無なんかじゃない。母さんは母さんだ。ふざけるな!」
成美ちゃんが続ける。
「あなたは瞑想装置なのよ。瞑想装置は成り立ての頃、あなたと同じように人間存在であった頃の愛着を棄てられず、そうやって破壊された無を織り成し、幻想を見詰めたがるのよ。でもやがてそれが幻想に過ぎないと分かり、人間としての心を失い、無機質に美しい破壊だけを繰り返すようになるのよ。創成の為の破壊をね」
僕は再び拒んだ。
「ふざけるな。俺は人間だ。人間として、こうして人間社会を歩き、母さんに会いに行こうとしている。この現実が全て無の所産だというのか?!」
成美ちゃんが言い切る。
「全部無なのよ。あなたが愛着を棄てれば、その幻想は全て消失するのよ」
僕は怒鳴った。
「俺は認めない!」
僕の怒鳴り声を聞いて、通行人が皆驚いて僕を見たが、僕はそれを無視して歩き続ける。




