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瞑想世界235

涙を拭い、僕は家路を急いだ。

歩いている僕の脳裡に成美ちゃんの声が届いた。






「その現実はあなたの幻想なのよ。あなたは無であると同時に有としての、在るが無い不定形な存在なのよ。そこに眼に見える現実は全て幻想なのよ。何も無いのにあなたは在ると錯覚しているだけなのよ。それが実存なのよ」





「うるさい、俺は人間なんだ。人間存在として最愛の母さんを殺す筈が無い。お前こそ騙し絵なのだろう、違うのか!」





「違うわ。あなたは村瀬さんの不遇を思う余り、友情にほだされて憤怒してアガティスの石ころを蹴ったのよ。それは人間の心の残滓にせよ、瞑想装置の心に則り正当な事だったのよ。結果あなたのお母さんが死んでも、それはあなたのせいでは無いのよ」





僕は熱い涙を流し喚いた。





「うるさい、俺は母さんなんか絶対に殺すものか。俺の母さんは死んでなんかいない。これから会いに行くのだから、黙れ!」





僕は再び通信瞑想を遮断し、涙を拭った。





僕には母さんを殺した覚えはまるでない。





それどころか僕は村瀬たる瞑想装置ではないのだから、アガティスの石ころなど蹴るわけが無いのだ。






母さんは生きているに決まっている。それだけを信じ、僕は家路を急いだ。

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