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瞑想世界231

無で在るのと同時に有なのよと、成美ちゃんが言った。

ふと僕のモノローグが破られた。





成美ちゃんの声だ。





「違うわ。瞑想装置の破壊は単数としての複数破壊なのよ」





僕はうろたえ、通信瞑想として届いた成美ちゃんの声に問い掛ける。





「成美ちゃんか、成美ちゃん、君はどこにいるんだ?」





成美ちゃんの声が答える。





「あなたの近くにいるけれど、同時に遠くにいるのよ。そしてあなたは田村さんと闘っていると錯覚しているけれども、本当は田村さんと対話しているに過ぎないのよ」





僕は問い返す。





「意味が分からない。それはどういう意味なんだ。成美ちゃん?」




成美ちゃんが答える。




「ここは位相の狭間であり、カオスの坩堝なのよ。不条理かもしれないけれども、その蓋然性に則って、私達は複数としての単数存在に変質変換しているのよ。だから私があなたであり、あなたが私であり、単一の自我の断層という垣根はとっくに無いのよ」





僕は質問を繰り返す。




「瞑想装置になれない俺達は、人間存在である事の名残で部分的存在である事を錯覚しているというのか?」





成美ちゃんが答えた。




「その通りなのよ。だからあなたはその錯覚を解き、あなたの中で闘っていると判断している田村さんに、対話をする事も出来るのよ。それをしてみたら?」





僕は一度固唾を飲んだ後、田村に語り掛けた。





「田村成美ちゃんの話しは騙し絵ではないのか?」






いともたやすく田村が応えた。






「お前が人間存在だと勝手に思い込んでいる、その単一というか、単数意識こそが錯覚なのだ。ここは位相の狭間であり、我々は在るが無いという不定形なる存在として、その狭間に蔓延しているのだ」





僕は田村に尋ねた。





「お前と闘っているという概念というか、錯覚を解けば、純粋な意味での通信瞑想だけが残るのか?」





田村が答えた。





「そうだ。今在るがままの己の形を受け入れれば、純粋な意味での対話存在としての我々のイメージがお前の脳裡に浮かぶだろう」




僕は成美ちゃんに問い掛ける。





「思弁にそってイメージが紡がれのか、成美ちゃん?」





成美ちゃんが答えた。




「そうなるわ。でもそのイメージも在るが無いという不定形の存在であり、思弁だけに実在感があるのよ。その実在感も複数としての単数のものであり、不定形なものなのよ」





僕は苛立ちつつ言った。





「随分曖昧なる存在なんだな?」





田村が言った。





「イメージは全て傀儡、錯覚としてしかなく、不定形で曖昧なる事が真実の実存なのさ」





僕は言った。





「それでは俺達は無なのか?」





成美ちゃんが答えた。




「無で在るのと同時に有なのよ」

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