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瞑想世界225
死んで花見は咲きはしないと、僕はそう思った。
自分の魂の奥を凝視するように僕は沈思して行く。
想えば、僕は命懸けの恋すらした事が無い。
酒を飲み、友達とよもやまの話しをしては、そのストレスをぶつけるようにカラオケに行き歌いまくる。
享楽がもたらす様々な喜怒哀楽の綾を或は愉しみ、或は嘆いて、生きている実感を得て来た。
群れの中。
その共同体の中で、自分のアイデンティティーを確認し、皆と共に今を生きている実感を共有して来たのだ。
歴史に名を留めようとか、そんな大それた事を考える事もなく、ひたすら人生を楽しんで来たのだ。
しかし全てを清算し、見直さなければならない状況を僕は迎えて、ひたすら困惑し混乱している。
こんな形で己の命を見詰めなければならない状況など、夢想だにしていなかった。
出来ればやり直しをして、成美ちゃんのような命懸けの恋をしてみたい。
死んで花見は咲きはしない。
僕はそう思った。




