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瞑想世界188
自分との闘いに負けた時が死ぬ時なのだと、田村が言った。
田村が言う。
「恐怖心を抱くというのは人間である事の証拠なんだ。でもその恐怖心に押し潰されたら、命は無いぞ」
その言葉を聞いた直後、僕は月の歌声となり、田村の恐怖心をつんざく。
田村が絶叫を上げ、逃げ出した。
鮮やかな血の色をした月光の歌声は、死ね、死ね、死ねというリズムで、田村目掛けて、殺意の合唱をする。
月光から分離したもう一人の僕はその様子を見詰めながら、田村を助けようとするが、身動きが取れない。
どうしても身体が動かない。
そんな僕に隣にいる田村が声をかけて来た。
「お前を思う俺だけを信じて、ついて来るんだ」
発狂しそうになる心を押さえて、僕は頷き答える。
「分かった」
「自分を信じ、友情を信じるしか活路は無いんだ」
僕はもう一度頷き言った。
「分かった」
「自分との闘いに負けた時が死ぬ時なのだ」
赤い月光の歌声にもう一人の田村が呑まれ、消えて行く様を横目で見遣りながら僕は頷いた。
「分かった」




