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瞑想世界105
慈悲について田村が語る。
ふと思い付いた事を僕は言った。
「村瀬の頭が破壊衝動しかなく、救いようが無ければ、棄て去ると言うのが慈悲か?」
田村が言った。
「慈悲の形など無いだろう。例えば苦痛しかない病人に安楽死を与えるのは、慈悲と捉らえられているわけだ。だが人間存在には死の向こう側にどんな世界が待っているのかは想像出来ないわけだ。安楽死は肉体が静かになる事で、その魂の様相は分からなくても、安楽死だからな。慈悲の問題は当人がどう捉らえているかが問題で、第三者が押し付けるものでは無いしな。難しい問題だと思う」
僕は言った。
「でも俺達の村瀬を思う気持ちは、命懸けのものだし。それを押し付けと捉らえられたら、こちらとしてはやり切れないな。全くの話」
田村が頷いた。
「だから、村瀬の気持ちを、本来の村瀬のものに戻す必要は絶対にあるのだ。そうすれば押し付けにはならないからな」




