瞑想世界10
位相転位に蓋然性や法則性は一切無いと、田村は言い切った。
息を調え、態勢を建て直してから、僕は田村に尋ねた。
「位相移転瞑想に蓋然性というか、法則性は無いのか?」
田村が言い切った。
「そんなものは無い。あるのは力と言うか技量の差だけだ」
僕は深呼吸をしてから言った。
「それじゃ、幼く拙い技量しか無いものには容赦無い死が待ち受けているのか?」
田村が頷いた。
「そうだ。ただお前や成実ちゃんには俺がついているからな。むやみやたらには死なせはしないと言うところでもあるんだ」
「それも絶対に死なない保障というのは無いのだろう?」
「無い」
死に対する恐怖が背筋をぞくりとさせるのを感じながら、僕は質問を繰り返した。
「例えば地点はどうなんだ。この場所で位相転位したら、この場所の裏側の世界に行くのか、どうなんだ?」
田村がきっぱりと言った。
「そんな法則性も無い。あちらの世界では、人間が造り上げた法則性や理屈など一切役に立たないのだ。裏や表という概念さえも無に帰す絵空事でしかないわけだ」
「それじゃ、頼れるのはお前だけだが、お前にも完璧性は無いという事か?」
「そうなる。人間が営々と造り上げた全ての記号的知識は無に帰すものでしかないわけさ」




