大切なもの2
「では、私達もそろそろ行きましょうか」
メグが言った。
小型船は2機とも彼等が使ってしまったので、俺達はMSの頭部カプセルで着陸する。
MSからコクピット周辺だけ切り離すと、独立した着陸船になるのだ。この機能は、昔に月の調査に使われたロケットのものと似ている。
MSの中枢であるコクピットは、故障があってもすぐ交換できるように独立しているのだ。
俺はシートに体を固定した。
やがてコルクの栓を抜くときのような小気味がいい音と共に、コクピットが揺れた。
切り離されたカプセルが、地球へと降下を始めたのだ。
漆黒の闇から碧青の光へのグラデーション。眩い光の中へと、僕達は進んでいく。
その美しさに見入ったのもつかの間。窓の外は、真っ赤な火に包まれた。
カプセルは、燃える炎の塊となって落ちていく。流星のように。
空気との摩擦でスピードが落ちて、火が消えるまでの数分間。
もちろん耐熱構造だが、外のバリアが欠けたりしていたら…。
コクピットは激しく揺れ続ける。窓の外の炎が、コクピットの中の全てを朱く染める。警告色のようなその色が、否応なしに不安を高める。
…
突然、皓白の光が俺を包んだ…
その光線は痛い程に強く、目を開ける事を許さない。
…どうなったのだろう。暫しの時間の後、俺は恐る恐る目を開けた。
光の直撃を受けて失われていた視力が、徐々に回復する。目の前の黒い霧が少しずつ消えて、視界が開けていく。そこには…
蒼い海。白い雲の遥か下に、弧を描くその水平線。
見上げると、透き通った空に、大きく輝く太陽。
メグがボタンを押すとパラシュートが開いた。カプセルは、そこからゆっくりと降下していった。
俺は、揺りかごの中に居るような安らかな気持ちで、柔らかな春の陽射しに包まれていた。
…やがて、窓の外に水飛沫が上がった。
それは、生命を支える液体。
ここは、生命の満ちる惑星。
カプセルはたった今、この星に降り立ち、大西洋に浮かんだ。
「大丈夫か?メグ」
俺は立ち上がって、操縦席にいるメグが体を起こすのを支えた。メグも元気そうだ。
「ハッチ開けるわね」
「いや、俺が開けるよ」
俺は、壁にある扉に手をかけた。
その重い扉を押し開けると…溢れ出してきた。
僕達はそれに圧倒されて、その場に立ち尽くした。
空の煌めき、風の温もり、海の香り…。
生命を育み、包み込む、果てしない力。
“MicroShelter”―そこには、決して存在しなかったもの。
それは、あまりにも小さな存在だった。
人間の持てる力を全て注ぎ込んでも、その為せる業は微小でしかない。
この星の存在に較べれば…。
この惑星は、大切な奇蹟なのだから。
この煌めきも、この温もりも香りも、全てが、大切な奇蹟なのだから―。
更新が遅れて申し訳ありません。残りはあとわずか、年内に終わらせることを目標に頑張りたいと思います。これから連日更新しなければ間に合わないでしょうけど…(できるのか?)全力を尽くしますので、どうぞ最後までよろしくお願いします。ここまで読んで下さった皆さま、とりわけ、不定期な更新の中で度々ここを訪れて下さった皆さま、本当にありがとうございました。